ITソリューション企業総覧2014Web
富士通

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09_社会インフラ/農業 ITソリューション企業編

食・農クラウド「Akisai」がもたらした
農業革命


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 富士通がめざすソーシャルイノベーションは、「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現」だ。これは、社会が抱える諸問題をICTによって解決し、人々が豊かで安心かつ快適、そして便利に暮らせる社会を目指す。中でも重点課題の一つに、食及び農業をあげている。食・農クラウド「Akisai」(秋彩)は、豊かな食の未来にICTで貢献することをコンセプトとして、企業的農業経営の実現を強力にサポートする農業ソリューションである。

食・農クラウド「Akisai」とは

 富士通は2012年7月、Akisaiを発表した。この名の由来は、実りの“秋”、果樹・野菜などの“彩り”をイメージしたという。農業という生産現場におけるICT活用を起点に、流通や地域、そして消費者をバリューチェーンで結んだサービスを展開しようというもので、そのサービスとは、露地(屋外の田畑)栽培やハウスなどの施設栽培そして畜産までをもカバーし、生産から経営・販売まで、もはや「企業的な農業経営」を支援するクラウドサービスとなっている。

 図1に、Akisaiの商品体系を示した。富士通イノベーションビジネス推進本部SVP(シニアバイスプレジデント)若林毅氏は「この図で、生産と記された領域が中核で、農業生産管理をはじめ施設園芸の環境制御、土壌分析・施肥設計(開発中)、センシングネットワーク、牛歩、肉牛生産管理など、農業生産現場で基幹となるサービスを含みます。さらに経営及び販売(販売管理・分荷は開発中)までサポートし、ハウスで苺などを栽培する施設園芸や田畑で米や野菜を栽培する露地、畜産、果樹まで農業全体をカバーしているのがAkisaiの最大の特徴です」と説明する。

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図1 Akisaiの商品体系

 

Akisaiの使い方

 図2にAkisaiの利活用シーンを示した。「農業経営ではまず、決められた時期に作物を収穫するための生産計画立案を作ります。次に日々の作業計画をたてます。このとき露地栽培の場合、台風などで計画どおりにいかないことがありますね。そのために作業実績や生産履歴、生育情報をタブレットやスマートフォンなどモバイル端末から日々入力しておけば、後で課題の原因追及や改善に役立てられるのです」と若林氏は生産管理の重要性を強調する。また、センサやカメラによる気温・湿度・日射量、画像など外的な環境情報も重要で、こうした収集データもAkisaiに送られ蓄積・分析されるなど、データに基づく農業経営に利活用される(写真1)。

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図2 Akisaiの活用シーン

 

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写真1 スマートフォンで写真撮影しクラウドに送付。Akisaiのアプリから容易に確認可能

 

 Akisaiでは、上記生産計画や作業実績管理以外に、農業版ISOといわれるGAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理手法)対応管理も可能だ。国際版がGGAPで日本版がJGAPと呼ばれる。これら点検シートは標準で登録済みである。若林氏は「日本の大手スーパーもJGAPを取得した生産者との取引きを重視するようになってきました。また海外の取引先の場合はGGAP取得を望んでいます」という。日本の農家も、ブランディングのためにこの認証を取得する気運も盛り上がりつつあるようだ。

Akisaiで着々と効果をあげるユーザ

 若林氏は「ICTにより企業的農業経営を実現するAkisaiですが、個人農家がフルラインナップで導入するのは、入力項目が多くハードルが高いかもしれません。そこで、“まずは記録から”という図1の農業生産管理の中の“ライト”を利用するプランがおすすめです」とアピールする。これは、手持ちのスマートフォンで作業日記や防除・施肥、農薬散布記録などを、気軽に場所を選ばず入力でき、生産履歴にも対応してくれる。価格も月額1500円から、ときわめてリーズナブルだ。

 ここで、この農業生産管理を活用、めざましい成果をあげている事例を紹介しておこう。

 はじめに滋賀県の「フクハラファーム」。米作における補植(苗の植直し)時間の多さに着目した。そこで、前行程(苗を植える前の整地作業)を丁寧にすることで補植を少なくするなどの改善活動を積み重ね、10aあたり2013年は2011年と比較して0.47時間総作業時間を削減、能率アップさせた。なによりも、従業員のコスト意識が変わってきたのが進歩と、代表者の上々の評価だ。

 和歌山県の早和果樹園は、高糖度ブランドみかん“味一みかん”の収穫量に占める割合を3年間で3倍にし、地域活性化をめざしている。そのために、果樹試験場指導のもとスマートフォンやセンサで情報を収集・蓄積・共有したり、樹木1本ごとにIDを付与し園地を見える化、そして収集データから各種アドバイスを行うシステム提供するなどで、味一みかんの収穫率は2年目には約2倍の成果をあげた。

 また大分県の衛藤産業は、従来からExcelでコスト集計を行っていたが、Akisaiの生産マネジメント機能(コスト集計や圃場台帳、写真検索機能)に切り替えた結果、原価などコスト把握まで可能となり、流通担当者との価格交渉力を向上させた。単位面積当たりの売上高は約1.3倍に拡大し、かつ肥料代も約30%削減したのである。

 さらに静岡県の鈴生は、レタスや枝豆などを栽培しているが、とくにレタスはファーストフードではそのおいしさに定評がある。いま7市に150の圃場を擁し、逐一現場150カ所を回るのは物理的に困難で、Akisaiを活用することで、現場に赴かなくても写真検索機能で圃場の様子を確認できたり、作業履歴照会や簡易分析機能を活用して、圃場別の生産原価管理やトラブルの早期把握、スキルアップに効果が上がった。また、作物を得意先に届ける際には産地報告書が必要で、Excelのときは数十分作成に要していたが、数クリックでできるようになった。

 そしてイオンアグリ創造は、全国12カ所の直営農場でAkisaiを活用しており、今後は全国でAkisaiの生産マネジメントの導入を計画している。これまでは、千葉県幕張にある本部では契約農家の状況(農薬や肥料の基準が守られているかなど)は、電話やFAXで確認するなど管理能率上の煩わしさがあった。ところがAkisaiの集約マネジメントを活用すれば、現場の生産担当者が毎日入力する実績データを、本部ではいつでもクラウド画面で容易に確認でき管理効率の向上が図れる。直営農場及び契約生産者に対しても、本部では、マネジメントと支援をスムーズに行えるようになった。

Akisaiの「施設園芸」でライバルのオランダに勝つ

 これまで、主にAkisaiの農業生産管理の機能をみてきたが、ここではもう一つ施設園芸(図1左側の写真部分)について、最新情報を紹介しておきたい。施設園芸は、オランダが世界をリードしている。同国は世界第2位の農業輸出国といわれ、政府も税制優遇措置やインフラ整備など様々な支援を行うなど、国をあげての力のいれようだ。一つの農業法人が10~50haに及ぶ広大なハウスを所有し、施設園芸生産者の95%がコンピュータ(ミニコンクラス)による統合環境制御システムを導入している(日本は2%程度)。そしてこのコンピュータシステム自体も輸出産業化され、日本でも導入されているという。実は、富士通もオランダに追いつき追い越せの思いで施設園芸でのAkisaiの利活用を推進している。若林氏は「図3左のハウス内ではオランダとは異なりLANベースの水平分散環境とし、ここにセンサや暖房機、換気扇などを接続し環境を制御します。そしてこのバックエンドにAkisaiがつながった結果、ハウスで制御しなくてもインターネット経由でオフィスからスマホやタブレットなどで制御でき、クラウドのデータ活用で、栽培技術の向上を図れます」という。

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図3 施設園芸クラウドとUECS

 

 さらに、日本発の施設園芸/植物工場向け複合環境制御システムUECS(Ubiquitas Environment Control System:ユビキタス環境制御システム)を採用している。これはインターネットベースのプロトコルで、日本のUECS研究会(星岳彦会長、近畿大学教授)で標準化されたものだ。UECSを支持するスマートアグリコンソーシアムは2013年12月現在、企業や大学など78団体が参加している。若林氏は「Akisaiは水平分散システムがもたらすコストや設置性、メンテナンスといったメリットに加えて複合的に環境制御可能という面では、オランダのシステムに十分対抗できるものと確信しています。今後は、オランダが20年以上の歴史で積み重ねてきたデータの蓄積が重要です。たとえばトマトを甘くさせる環境制御方法やより省エネで栽培する技術など、我々も、多くの方たちに実際にお使いいただき、活用ノウハウを蓄積していきたいと」と抱負を語る。

Akisaiの今後の針路

 Akisaiでは井関農機との間でAkisaiの生産マネジメント機能をカスタマイズ化して、井関農機ブランドのもとOEM供給する協業を発表した。

 また、自社実践ということで、富士通では沼津工場に、露地約1000平方メートル、施設約350平方メートルという規模のAkisai農場を開設し、施設園芸やモバイル端末検証のための農業生産管理SaaS、農園情報センシングネットワーク、圃場センサなど、実践から得られたデータや検証結果をもとにサービス開発加速に役立てている。ここは見学者を受け入れるショールームとしても活躍中だ。

 さらに注目すべきは、植物工場である。若林氏は「会津若松市の富士通半導体工場に、2000平方メートルのクリーンルームを利用して野菜栽培を実践する完全密閉型の「Akisaiやさい工場」を開設しました。実際に低カリウムレタスを量産して慢性腎臓病の方たちに販売していく計画です」と語る。植物工場におけるAkisai適用のリファレンスとしても活用している(写真2)。

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写真2 会津若松のAkisaiやさい工場。クリーンルームでの完全密閉型

 

 「今後は利活用をより高度化し、クラウドやサービスのレベルアップを考えています。Akisaiにより農業生産現場で多彩なデータ収集が可能になり、たとえば流通業の方たちもこれらデータを取り込んで消費者まで届けられる、いわば川上の情報を川下にも伝えるようなサプライチェーンにご活用いただけるといいですね」と若林氏は抱負を語る。これまでにAkisaiは1000社以上の客からの問合せや引合いがあり、160社で利用している。うち有償利用は92社、トライアル・実証利用は68社となっている。

 

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