ITソリューション企業総覧2014Web
インタビュー NTTドコモ 滝田亘氏/清水敬司氏

インタビュー NTTドコモ 滝田亘氏/清水敬司氏

特集 特集2 IT利活用が創出するビジネス新潮流

大規模災害時でも繋がる通信システムを
どう実現させるか


NTTドコモ 主幹研究員 滝田亘氏/清水敬司氏に聞く

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NTTドコモ
www.nttdocomo.co.jp/

聞き手:ITソリューション編集部


 地震など大規模災害の発生時にまず人々がとる行動の一つに、近親者等への安否確認がある。いまでは、多くの人が携帯電話やスマートフォンを所持しているので、即対応可能な通信環境が整備されている。しかし問題は、このとき実際に誰もが望む相手と確実に繋がるのか、である。先の東日本大震災では、いつまで経っても接続できず、不安に襲われた体験をもつ人たちも多かったはずだ。

 最近こうした重要な通信の課題に取り組むべく、「大規模災害時における通信混雑緩和技術」に対する取組みがNTTドコモを中核にいくつかの組織が結集して始まった。

災害時における通信サービスの需要に対応するにはシステムの柔軟性が不可欠

 (株)NTTドコモ 先進技術研究所 研究推進グループ 主幹研究員 滝田亘氏(写真左)は、災害時における通信混雑状況について「東日本大震災の場合、音声通信が被災地を中心に通常時の50~60倍に、またパケット通信が3~4倍に集中しました。やはり非常時には誰もが、音声により直接、安否確認をしたいということですね。したがって通信の受付けを実行する通信制御サーバに大変な混雑が発生し、特に音声通信が繋がりにくい状況が続きました」と、当時を振り返る。実際には、震災直後ではなく少し間をおいて、我にかえった人々が一斉に電話による安否確認を行い、そこから本格的な通信混雑のピークが急激に立ち上がったという。

 現在、スマートフォンやタブレット端末などの普及により通常時は、音声通信よりも、インターネットやメールあるいはYouTubeなどリッチメディアコンテンツを利用するパケット通信への比重が高いのが実情だ。「私たちがいま利用している通信環境は、通常時のニーズにあわせたシステムとして構築されていますので、災害時のニーズに対応可能にするためには、そうしたサービス需要の変化に追従しうる柔軟性の実現が不可欠なのです」という。それにしても、音声通信が通常時の50~60倍というのは、かなり厳しい結果ではないか。

「大規模災害時における通信混雑緩和技術」に対する二つの取組み

 こうした背景のもと、大規模災害時における通信混雑の緩和技術確立をめざして、NTTドコモを始めNEC、富士通、日立ソリューションズ東日本、NECソフトウェア東北、東北大学、東京大学の共同研究及び実証実験が始まった。これは総務省の平成23年度補正予算において「大規模災害時における移動通信ネットワーク動的通信制御技術の研究開発」および平成24年度一般会計補正予算において「大規模通信混雑時における通信処理機能のネットワーク化に関する研究開発」として委託を受けたものだ。

 前者における参加各組織の役割は、全体アーキテクチャをNTTドコモが担当し、動的制御や管理技術などを、NEC及び富士通が、そして災害時に役立つ情報通信サービスの検討を東北大学や日立ソリューションズ東日本が担当した。
 後者での参加各組織の役割は、全体アーキテクチャをNTTドコモが担当し、有機的な連携制御や信頼性向上、可視化、管理技術などをNEC及び富士通が、そして新通信サービスの検討を東北大学や東京大学そしてNECソフトウェア東北が担当した。

 滝田氏は「東日本大震災における教訓をふまえて二つの対策を考えています。第一に、通常時に音声はパケットと比べそれほど利用されてはいませんが、災害時には逆に音声通信へのニーズが著しく増大するので、音声通信と比較すると余力があるパケット通信の処理能力で音声通信を代替するというものです(図1左の“音声通信が著しく増加”)。もう一つは、被災地近辺における通信混雑が顕著でその影響を受けやすい通信処理を、そこから離れた余力のある地域の通信インフラを最大限に活用して通信混雑を緩和させようというものです(図1右の“被災地の通信が著しく増加”)」と二つの大きな研究開発への取組みを説明する。

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図1 東日本大震災をふまえた課題

 

 現在の移動通信ネットワークはインターネットのIP(Internet Protocol)技術に基づいており、今後期待の技術であるネットワーク仮想化を実現するSDN(Software Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)が、通信混雑緩和のために上記二つの対策を実現させるキーテクノロジになってくるという。

実証実験にみる通信混雑緩和の技術2題

(1)音声通信処理能力は5倍に

 先の東日本大震災のようにその被害地域が広域に及びそこで膨大な通信要求が発生した場合、その通信に必要な帯域が不足することよりもむしろ信号量、すなわち通話要求量でオーバーフローしてしまう。この点の解決策が重要なポイントとなる。滝田氏は「いまのシステムですと、音声通信やパケット通信には専用の機器がそれぞれ採用されており、設備全体では通常時のニーズに応えるために、パケット通信に比重がかかった構成になっています。この設備状況で震災が発生、前述のようにパケット通信の能力を音声用に代替させようとしたら、システムを解体し機器自体を取り替えて再構築しなければなりません。そうなりますと、どんなに急いでも数日は要することになり、いざ震災が発生しますと対処が必要な音声通信の通信混雑は発生後約24時間ですから、とても間に合いません」と現状を語る。

 そこで、実証実験で採用された技術は「こうした機器の取り換えなしで代替させるために、ハードウェアに依存しないソフトウェア主体のシステム構成にしました。それがSDNやNFVによる技術です」と、滝田氏は発想の転換に基づくキーポイントを強調する。

 この結果、図2に示したように、実証実験における通常時構成は、1時間当たりの受付け呼数(ユーザーの通話回数)が音声通信11.25万、メール通信13.5万、リッチメディア他の通信58.5万の総処理能力83.25万に設定した。これは50万ユーザー分相当である。これを、NFVによるソフトウェア主体のシステム構成により災害時構成に切り替えると、「リッチメディア他の通信を13.5万に縮小させ、その分を音声通信に代替し56.25万に一挙拡大させました。この結果、疎通率(通信が繋がる割合)は発生トラフィックに対し5%であったものが25%と、5倍に拡大できたのです。しかも、この構成切替えに要する時間も、従来のハードウェア主体の場合、数日以上かかるものが、実に30分で実現可能なことが実証できました」と、同 先進技術研究所 情報通信クラウド研究グループ 主幹研究員 工学博士 清水敬司氏(写真右)はその効果をアピールする。

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図2 移動通信ネットワークにみる動的通信制御の実証

 

 この実証結果をさらにわかりやすくいうと、「災害時の通信混雑ピーク時には従来のシステム構成だと約20回に1回しか繋がらなかったものが、約4回に1回繋がる状態にできる計算です」という。これが、とりもなおさず図1左側にみる“音声通信が著しく増加”に向けた対策に相当する。

(2)離れた拠点間で通信処理資源を融通

 図1右側にみる“被災地の通信が著しく増加”に向けた対策についても、この3月に実証実験を完了した。その仕組みを図3に示した。

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図3 通信処理機能にみるネットワーク化の実証

 

 滝田氏は「これは、通信混雑が発生している地域に、余力のある他地域から通信処理資源を、SDN技術を使って融通させるというものです」という。具体的な実証実験では、仙台市の東北大学に中核となる通信機器を設置し、横須賀市の横須賀リサーチパーク内のシステムと接続したテストベッドを構築する。清水氏は「たとえば図3のように、関東拠点の余力ある一部の音声処理用のシステムを仮想的に切り離して、あたかも東北拠点のシステムの一部であるかのように接続して利用できるようにします」と離れた拠点間でのネットワーク仮想化技術のキーポイントを説明する。「この離れた拠点間の場合も30分程度で完了できました」そうだ。

通信混雑緩和を実現させる極めつけのネットワークシステム

 上記二つの対策に取り組んだ極めつけのシステム構成が図4だ。図中、最下部が従来でいうスイッチやルータなどハードウェア(ネットワーク機器)で構成されるIPネットワークの部分であるが、ここをOpenFlowやSDNなどソフトウェアで制御するネットワークで構築する。ここで離れた拠点間での通信処理資源を融通可能だ。そして、その上のサーバ仮想化基盤はクラウドで利用される技術と同じで、たとえばVMwareやXen、Hyper-V、KVMなどでおなじみハイパーバイザを利用して構成、その上でVM(Virtual Machine)を設定する。さらにそれらVM上で、IMSやEPCなどと呼ばれる通信サービスの処理をNFVと呼ばれる技術で機能させる。ここで、音声通信の呼処理を行うIMSと、パケット通信の処理を行うEPCとの間で割当て変更など融通しあうことが可能だ。

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図4 SDN及びNFVによる実証実験ネットワークの構成

 

まずは現ネットワークを使い切ることから

 このたびの実証実験は災害時における大規模混雑の緩和を実現させるためのものであるが、ネットワークソリューション的にみても、昨今話題のSDNというネットワーク仮想化技術が大きな負荷をかけられた状態で、どこまでスペックを発揮できるのか、といったいわばベンチマーク的な要素もあってきわめて興味深いものがある。滝田氏も「これだけの大規模でSDN化され移動通信ネットワーク実験システムの例はないのではないでしょうか。実証実験自体も問題なく、すべてがすんなり運んだというわけではありません。実装的な課題や過負荷状態の再現など、幾多の試練を乗り越えて成功できたといえます。また50万人規模の仮想ネットワーク構築・運用を通じて得た成果はNFVなどの国際標準にも提案しました」とワールドワイドな観点からの取組み経過を述懐する。なお、実証実験は、2012年3月からの検討をもとに、テスト環境を整備し開始、最終的な結果が総務省に報告された。

 滝田氏は「理想としては、大規模災害時に、それこそ日本国民約1億3000万人が一斉にアクセスしても繋がるシステムをめざしています」。しかし一方で、「日本国民全員によるアクセスは、常識的には考えにくいですね。それに、そうしたネットワークは現存しません。そうすると、大切なことはいまあるネットワークを使い切ることが重要なのです。使い切るとは、制御技術によってネットワークをより効率的に利活用する、ということなのです」と、このたびの通信混雑緩和技術がめざす意義を改めてアピールする。

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