ITソリューション企業総覧2015Web
インタビュー/セイコーエプソン 牛山 憲一部長、馬場 宏行氏・エプソン販売 宮澤 重義氏

インタビュー/セイコーエプソン 牛山 憲一部長、馬場 宏行氏・エプソン販売 宮澤 重義氏

特集 特集2 社会生活から国家施策までを支援するICTソリューション

スマートグラスや
GPSリスト機器・UTMグリッド地図などの
ICTで実現する最先端の災害救助対策


セイコーエプソン 牛山 憲一部長、馬場 宏行氏
/エプソン販売 宮澤 重義氏に聞く

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聞き手:ITソリューション編集部


 災害が社会生活に及ぼす被害は発生のつど深刻さを増し、昨今これまでに経験したこともないような過酷な状況もみられるようになってきた。こうした局面に際し、めざましい発展を遂げてきたICTが少しでも災害対策に貢献できないものかと、精力的な取組みが続けられている。とくにエプソンでは、スマートグラスやGPSリスト機器などウェアラブル機器やUTM(Universal Transverse Mercator)グリッド地図システムによる最先端の災害救助対策ソリューションを開発・活用し、実証実験で堅実な結果を生み出すなど積極的な取組みを展開し続けているところだ。

 ここでは、セイコーエプソン センシングシステム事業部 S企画設計部長 牛山憲一氏(写真中央)、同 ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 エキスパート 馬場宏行氏(写真左)、エプソン販売 営業推進部 ビジネスコンサルタント 宮澤重義氏(写真右)に、こうした取組みの近況を聞いた。

 

ICTは災害対策にどのように貢献するか

 エプソンが災害救助対策に、同社得意のICT利活用による推進をめざすのは、次のような背景がある。実は、陸上自衛隊研究本部では、年に一度、一般企業からの提案を募っている。同社もこれまでに数度応募しているが、特に安心・安全の観点から災害救助関連の最新ソリューションを提案してきた。

 代表的には、スマートグラス「MOVELIO」(モベリオ)とワイヤレスミラーリングアダプター、そしてGPSリスト機器とUTMグリッド地図などの利活用だ。たとえば、スマートグラスは目の前に大画面映像をシースルーで表示でき、実際の視野に必要な映像情報を重ねられる。このときハンズフリーなので救助隊員は作業性向上のメリットも得る。またUTMグリッド地図は自衛隊や警察、消防などで位置特定の共通言語として使用されているもので、大規模震災時や山岳遭難対策に際し、より迅速かつ的確、容易に位置を掌握することが可能だ。位置を表すUTMグリッド座標を救助隊員のGPSリスト機器に表示可能にすることで、隊員の救助活動は一層スムーズになる。このように映像を活用すれば、従来のような文字や音声による方法と比べて、はるかに関連情報量が多く、救助活動の範囲や質を向上させることができるのである。

 

ウェアラブル機器とUTMグリッド地図など
ICTソリューションで実現をめざす
二つの災害救助対策実証実験

 具体的にICTによる災害救助活動における機能を、実証実験にみてみよう。

(1)無人航空機が撮影する被災地状況の映像をスマートグラスにリアルタイム転送

 2014年5月、香川県坂出市でNICT(独立行政法人情報通信研究機構)との協力でこの実証実験は行われた。実験では、NICT提供のワイヤレス通信技術により、無人航空機が被災地にみたてた上空で撮影した現場のリアルタイム映像を、超高速インターネット衛星「きずな」を介して広域伝送できるようにし、スマートグラス「MOVERIO BT―200」に転送した(写真1)。

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写真1 スマートグラス「MOVERIO BT-200」装着時の視野例

 具体的には、被災地現場を俯瞰した撮影映像や撮影位置情報を、地上の災害対策本部や被災地現場へ伝送したほか、ワイヤレスミラーリングアダプターを介して、被災地現場で作業する救助隊員のスマートグラスへも転送可能なことを実証したのである。

 これにより救助隊員たちは、いま目にする状況と同時に、スマートグラスに表示される上空からの映像も確認できた。また、現場の位置を明確な数字で掌握可能な後述(2)項のUTMグリッド地図もスマートグラスの中で同時に確認でき、より正確な判断を迅速に下せることも実証された(図1)。

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図1 スマートグラスやワイヤレス通信による坂出市での災害救助対策例

 さらに重要なことは、救助隊員による無人航空機の遠隔操作は、操作の度に視線を無人航空機から外してコントローラ画面に移さなければならず航空機を見失うことがあったが、スマートグラス着用により自分の視野中に半透明のコントローラ画面を投影可能なので、上空の無人航空機の位置を目視で確認しながらの操作までをも可能にしたのである。これにより、コントローラ操作中でも無人航空機を見失うことがない、と救助隊員の評価も上々であり、ハンズフリーのため自由な両手をより作業能率向上にいかすことができた。

(2)UTMグリッド地図やGPSリスト機器などを利活用した防災訓練

 また2014年11月には、宮城県多賀城市で同市および陸上自衛隊東北方面隊、東北大学と連携して、大規模震災対処訓練「みちのくアラート2014」において、UTMグリッド地図を用いた防災訓練が行われた。

 UTMグリッドとは、国際標準であるユニバーサル横メルカトル図法で作成した地図上に縦・横軸のグリッド線(格子状)を配置し、この座標軸により地球上の位置を特定する方法だ。なじみ深い緯度・経度と比べると、通常6~8桁(精度100m~10m)と少ない桁数により、位置を詳細にかつわかりやすく伝達できる。したがって災害時には緯度・経度と比べると、口頭での伝達やメモの取りやすさや記憶のしやすさなどといったメリットがあり、救助活動のスムーズ化が期待されている。

 みちのくアラート2014では、多賀城市防災スタッフと陸上自衛隊員らがウェアラブルGPSリスト機器「WristableGPS」(写真2)を装着し、自分の現在位置や被災地現場の状況を適時、UTMグリッド座標で災害対策本部に連絡、防災対応におけるUTMグリッド地図活用の有効性を実証することができた。このGPSリスト機器は、現在発売中のランナーのための快適ランニングおよびステップアップを支援するものであるが、これにUTMグリッド座標や緯度・経度も実装したサンプル製品だ。GPSリスト機器によれば、装着した人が何時にどこへいて、どれくらいの速さでどの方向に、どのような経路で歩いて移動したか、などのログデータを収集できるほか、標高までわかる。現在リアルタイム機能はないが、その機能がつくと、被災者の心拍数なども掌握でき、たとえば救助の優先順などに役立ち、さらに災害救助レベルの向上が期待できる。
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写真2 GPSリスト機器「WristableGPS」。ディスプレイ下にみえる8桁数字が
UTMグリッド座標で、現在ランナー向けに発売中の機種に関連ソフトを実装した
特別仕様の製品

国家戦略でもある防災・減災に貢献するICT

 防災や減災はもはや国民の安全を守り安心をもたらすべき国家戦略でもある。2013年11月、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法が成立した。そして、国土強靭化基本法案の行政機能・警察・消防機能の対応方針に、「救助にかかわる関係機関どうしにおける円滑な共通認識を図るため、統一した地図、すなわちUTMグリッドを有効活用するなど、災害対応の標準化に向けた検討を推進する」旨が記述された。

 こうした動向をふまえエプソンでは、地域防災計画の策定と実施・運用のために、UTMグリッド地図と同社の技術ノウハウおよびサービス、たとえばここで紹介したスマートグラスやGPSリスト機器以外のソリューションも組み合わせて、さらにUTMグリッド地図を容易に利活用可能な環境を創出できるよう支援かつ取組みを推進していく。

 

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