ITソリューション企業総覧2015Web
インタビュー/富士通 熊谷 博之プリンシパル・コンサルタント

インタビュー/富士通 熊谷 博之プリンシパル・コンサルタント

特集 特集1 日本の「モノつくり力」を向上させるICTソリューション

バーチャル/リアルワールド間での
フィードバックがもたらすモノづくり革新


富士通 熊谷 博之プリンシパル・コンサルタントに聞く

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聞き手:ITソリューション編集部


 これからのモノづくりには、これまでの製造現場における部品調達から製品までのプロセスのみならず、そのプロセスと連携した前段階における商品企画から部品準備に至るまでの徹底した仮想化やシミュレーションを欠かせない、という。そして、両プロセス間でのフィードバックが極めて重要になるが、ここで活躍するのがVR(Virtual Reality)技術だ。この分野で、業界をリードする富士通 産業・流通営業グループ プリンシパル・コンサルタント(ものづくりビジネス担当)熊谷博之氏に、モノづくり革新のめざすところを聞いた。

 

モノづくり革新はインダストリー4.0と同じベクトルにあった

 昨今、モノづくりは、インダストリー4.0にどう向き合うか、が共通課題といわれる。特にこの分野では、歴史と実績を擁する富士通であるが、同社はいま、2020年を見据えたモノづくりの改善がもたらす“モノづくり革新”に精力的な取組みを展開している。

 実は、その内容は、2020年以降も見据えたとき、いま業界も注目するインダストリー4.0と同じベクトルになっているというのだ。そもそもドイツ発祥のインダストリー4.0は、2030年を見据えたストラテジーになっているというが、富士通のモノづくり革新は、まずは5年先のレンジにフォーカスしている。その後はおのずと10年先の道筋になるが、その点に注目すれば、まさにインダストリー4.0の道筋に近いものがあるのだという。

 

変貌するモノづくりの姿

 インダストリー3.0の世界では、情報がモノを補完する、すなわちIT業が製造業を補完する形態であった。ところが4.0の世界では、情報とモノは一体化する、すなわち同義語とも位置付けられる世界となる。したがって、製造業とIT業は同一化され、かつサービス業と製造業も同一化してしまうであろう。このような状況は、ITと製造業が半々の富士通ビジネスにとっては絶好の追い風であり、今後のビジネス展開上も極めて有利な展開が期待されそうだ。

 図1はモノづくりにおける“もの”と“づくり”の連携を表したものだ。左半分は、商品企画から部品調達までのプロセスを表した仮想化やシミュレーションの世界で、右側が現場での調達された部品から製品までの自動化や省力化に基づいて製造する世界である。ここで、重要なのは左側と右側との間で行うフィードバックだ。たとえば、コストやECOを考慮した部品調達はどうあるべきか、生産準備に対する組立性を考慮してどのような設計を行うべきか、工場生産は生産拠点を考慮した構想に基づきどのような設計を行うべきか、製品はマーケットニーズを商品企画にどう反映させるか、など右側の下流から左側の上流に向けたフィードバックがモノづくりには、極めて重要なのだ。

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図1 リアル領域からバーチャル領域へのフィードバック

 

バーチャルワールドとリアルワールド間のフィードバックにVRを利活用

 具体的にフィードバックとは何か。図2で、左側をバーチャルワールド、右側をリアルワールドと呼ぶ。両ワールドを橋渡しする「D―Com」と呼ぶプラットフォームが、両ワールド間における情報のやりとりを行う領域である。実は、これが富士通のモノづくり革新のキーポイントともいうべきものだ。とくに、一番下の現場系の製造実行システムではさまざまなリアル情報がうまれるので、このリアル情報をバーチャル側にフィードバックしなければならない。特にここがもっとも重要なフィードバックで、これが伴わないと、新しい企画や製品開発にいかせなくなってくる。

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図2 D―ComにおけるVR利活用

 そしてD―ComにVRを持ち込み両ワールド間におけるフィードバックに伴う情報のやりとりを“見える化”させる。VRとは、3D CGや音響効果などとの組合せにより、人工的に現実感を作り出すことができるもので、人間の理解の仕組みと合致した体験型環境を提供してくれる。ここにモノづくり革新のめざすノウハウが集積されている。なお、図2でリアルワールドの右側に記されたタイムは、命令を発して機械が実際に動き始めるまでの時間を指し、その時間内に動き出さなければならないことを意味する。

 VRによる例を紹介しよう。たとえばVRによる立体視の世界で、組立て作業の体験トレーニングが行える。この結果、実物によるトレーニングが困難な場所や装置でも体験型のトレーニングを実現でき、リアルワールドの組立てミスを軽減させることが可能だ。また、企画から試作段階の仮想検証では、3Dプリンタとの組合せにより、VRで製品イメージを見たり感じたりできるほか、3Dプリンタで即試作でき様々な要求に即応できるので、直感による企画レビューで企画品質を向上させたり、リアルワールドにおける設計への手戻りも削減できる。さらに、可搬型CAVE(4面VR)では、付属コントローラで自在に空間を移動しVRデータの操作が可能だ。将来的には、技術的直感やVR内でものを掴んだ際の感覚などにも取り組むという。

 そして、ロボットもVRの世界でさまざまな検証を経て、工程ごとのロボットを稼働させている。たとえば携帯電話機のメインボードに部品を取り付ける作業や、従来人手によらないと困難であったシール貼りや剥がしもやってのける。これは、まさにバーチャルおよびリアルワールドが一緒に動かないと現場系モノづくりができない世界だ。また写真1のように、2台のロボットに作業させる場合、通常は2台のロボット間同期は困難であったが、ソフトウェアにより各ロボット動作を自動生成させながら稼働可能だ。そうすると、写真にみるような柔軟部品の組立てまでスムーズに実現可能となってくる。

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写真1 2台のロボットによる共同作業

 

バーチャルワールドで実証、リアルワールドで実際につくるモノづくり革新

 上記のようにバーチャルワールドとリアルワールド間で連携かつフィードバックさせることで、モノづくりにさまざまな革新をもたらすことができるようになる。こうした結果、あるモノづくりのケースでは、計画して実際に現場を動かすのにこれまではリアルワールドだけで対処していたものが、バーチャルワールドを利活用することで、従来1カ月以上かかっていたのに2週間でできるようになった例もあるという。また、1ラインあたりに必要な人数も当然予測できるので、効率的なモノづくりライン構築に結びつくという。

 そして昨今の熟練技術者不足に対処するために、リタイアしていたベテラン技術者のアドバイスを、遠隔地間会話で共通画面を操作しながら検討するVR技術によって、現役若手技術者へのノウハウ伝承に生かせるようになるなど、モノづくり革新は、わが国の新たな強みを創出することが期待できそうだ。

 

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