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インタビュー/ベッコフオートメーション 川野 俊充社長

インタビュー/ベッコフオートメーション 川野 俊充社長

特集 特集1 日本の「モノつくり力」を向上させるICTソリューション

スマート工場を実現させる
“インダストリー4.0”が
産業界に与えるインパクト


ベッコフオートメーション 川野 俊充社長に聞く

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聞き手:ITソリューション編集部


 最近、わが国でも“Industrie4.0”(インダストリー4.0)すなわち“第四次産業革命”への関心が急速に高まってきた。インダストリー4.0は、ドイツの戦略的な政策であるが、そのめざすところは、「サイバー・フィジカル・システムに基づくスマート工場の実現」といわれる。ここでは、インダストリー4.0の具体像、あるいはこれが、わが国のモノづくり現場にどのようなインパクトを与えるのか、この分野に詳しいベッコフオートメーション(以降、ベッコフ社) 代表取締役社長 川野俊充氏に現状を聞いた。

 

第四次産業革命の到来インダストリー4.0

 インダストリー4.0は、第四次産業革命というキャッチフレーズがついている。このインパクトあるフレーズが功を奏して、業界では、大きな関心を呼んだ。すなわち、第一次産業革命が、18世紀後半の蒸気機関等による工場の機械化、第二次産業革命が、19世紀後半からの電力活用による大量生産の開始、第三次産業革命が、20世紀後半に始まったPLC等電子機器やIT活用の生産自動化、そしていま第四次産業革命すなわち“インダストリー4.0”のステージを迎えた。

 インダストリー4.0は、製造業における国際競争力の強化など、確かにドイツの国策ではあるが、ドイツと日本が、製造業の世界で、どのように手を組んでいけるのか、お互いに追究していってこそ、モノづくりの将来展望がみえてくる。

 

インダストリー4.0の具体像は

 インダストリー4.0の具体像をもう少し掘り下げてみよう。

 2011年から、インダストリー4.0に関する素案とりまとめが産官学の共同プロジェクトとして推進された。そして、2013年からはドイツの電機をはじめ通信、機械など有力な業界団体(BITKOM、VDMA、ZVEIの三つで加盟企業数は5000社を超える)が運営する“Industrie 4.0Platform”と呼ばれる事務局のもと、産官学がさまざまなワーキンググループにおける活動を通じて、インダストリー4.0実現に向けた必要な標準化議論や技術開発を推進しているところだ。

 インダストリー4.0のねらいは、大きく二つあげられる。

 第一が、「スマート工場を標準化して、国内展開することで製品の付加価値を高めること」である。スマート工場と称するものは、世界中に存在する。しかし実情は、各社どうしの競争があって基本的にはクローズな環境になっており、たとえ同じ企業内の異なる工場どうしでも同様なことが多いという。したがって、同じような技術開発に重複して取り組むケースも多い。同じものを製造するにしても、その手段がかなり異なる場合も多いものである。こうした状況は、各社にたとえ競争力がついたとしても、国の産業施策からすればムダといわざるをえない。

 そこで、さまざまなスマート工場のノウハウを競争領域と協調領域に分離させて、協調領域のノウハウを規格化したり標準化させて、皆で利活用できるようにするのである。たとえば、機械どうしをつなぐ通信手段などがそうだ。

 第二は、「スマート工場の機能やノウハウをセキュアにブラックボックス化して標準規格に準拠するように製造自動化装置に実装して、海外の現場に輸出、そして国外でも製造技術の主導権を握ること」である。この製造自動化装置が、後述のCPSである。このような製造自動化装置を数多く並べた製造現場は、まさにムダのない業界標準に準拠したスマート工場といえるものだ。

 いまインダストリー4.0は、中堅・中小企業の輸出やグローバルビジネスを支援する最大の支援策として期待が高まってきた。こうしたことに、ドイツという国が旗振りをし、国を挙げて取り組んでいるのである。

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図1 CPSのイメージ。工場の制御系から基幹系の機能全体を表現するピラミッドと、
自律的なCPSによる生産システムと人間との連携例

 

インダストリー4.0を構築する標準化された
代表的なソリューション“CPS”

 インダストリー4.0は、具体的にはサイバー・フィジカル・システム(CPS:Cyber Physical System)によってミニスマート工場を実現させることが目標だ。そして、CPSの規格化や標準化こそ、インダストリー4.0の今後に大きな影響を及ぼすといわれており、現在、これに向けた取組み議論が進められているところだ。

 このCPSは、インターネットあるいはクラウド環境にアクセス可能なコンピューティング(Cyber)リソースおよびセンサはじめモータやロボットなど物理的(Physical)リソースを統合させた生産装置(System)である(図1)。これらセンサや周囲の装置、生産品、さらに作業者たちの情報をベースに、自律的な判断が行えるCPSを組み合わせてスマート工場をつくり、生産性向上をめざすのである。

 とくにCPSの代表的な応用例がダイナミックセル生産方式だ。この生産方式は、組立て作業を行うCPSが組み込まれた産業用ロボットが、ネットワークで上位系システムや周囲の装置、現場作業者たちと常時情報交換を行い、状況に応じて生産工程や生産対象を動的に組み替えて工程の全体最適化が行える。したがって、変量多品種生産を効率的に自動化可能な生産方式なので、全て仕様が異なる製品の生産も行える。さらには、生産直前や生産の途中でも仕様変更に対応できる画期的な生産方式なのである(図2)。

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図2 インダストリー4.0での実現をめざすダイナミックセル生産方式

 

インダストリー4.0で重要な通信規格

(1)効果的な水平統合を実現する「EtherCATR」*

 インダストリー4.0では、装置がラインを超えて、ラインが工場を超えて、工場が企業を超えて「つながる」ことが必要なため、オープンな通信規格が必須となる。産業用PCに基づいた制御ソリューションを専業とするベッコフ社のEtherCAT®もその典型例だ。1980年創業のベッコフ社はドイツの中堅企業で、超高速の産業用リアルタイムイーサネットEtherCAT®(イーサキャット)を世界に先駆けオープン化し、これをインダストリー4.0の実現に最適な通信規格として位置づけている(図3)。

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図3 EtherCAT®:ムダな配線が一切ない

 EtherCAT®も、ベッコフ社の目玉的存在のネットワークソリューションで、企業内LANなどでお馴染みのEthernetにリアルタイム性を機能拡張させた産業用オートメーションのための通信規格だ。


* EtherCAT®は、ドイツBeckhoff Automation GmbHによりライセンスされた特許取得済み技術であり登録商標。

 

(2)工場現場からMESやERPまで垂直統合を実現する「OPC―UA」

 また、インダストリー4.0で、基幹系との通信に必須の規格と位置付けられる「OPC―UA」がある。EtherCATRが水平統合なのに対して、この規格は、工場現場からPLC(Programmable Logic Controller)、SCADA/HMI(Supervisory Control And Data Acquisition)/HMI(Human Machine Interface)、MES(Manufacturing Execution)、ERP(Entrise Logic Controller)まで、垂直統合をめざすものだ。

 これは、マイクロソフトのCOM/DCOMから発展してきたが、非常にセキュア、プラットフォームに依存しない、情報モデルを構造化できるという特徴があり、組込みデバイスから、サーバ、メインフレームまで上位層との間でもセキュアな通信環境を構築可能だ。したがって、たとえば現場のPLCとクラウド環境を直接接続できる(図4)。

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図4 シンプルなマスタ間通信でPLCをクラウドに直接接続する例

 

 OPC―UAはFA機器の接続性向上に極めて適していることから普及に努力してきた今日、誕生した米国よりも、ドイツなどヨーロッパでの利活用が顕著な実情は注目に値する。

 

スマート工場の例:多品種生産の自動化に成功したノビリア社

 ノビリア(Nobilla)社は、ドイツに2カ所工場を擁するヨーロッパ最大の高級キッチンメーカーだ。同社の得意とするモノは高級品の製作のため、たとえばコンセントの位置など注文主の好みにより仕様は全品異なってくるので、通常は手作りになるが、実は次のような工程で生産する。その工程とは、材料を部品に加工する前工程と、部品を組み立てて製品にする後工程があるが、前工程が木工用工作機械によって、後工程が産業用ロボットによって高度に自動化されているのだ。

 工場では、全工程でベッコフ社のソフトウェアPLC/NCが動作する540台のPCコントローラで自動制御されている。工場全体のデータトランザクションは100万/日を超えるが、それでもトランザクションあたり100ミリ秒程度で処理できる。実際に工程の流れをみた人の話では、一つとして同じ部品が流れてこない、まさにマスカスタマイゼーションでありながら自動化に成功したケースとして極めて意義深いものとなっている。

 

日本でのインダストリー4.0に向けた今後の取組み

 わが国でも、日本版インダストリー4.0への取組みが起こりつつある。国が対応策を検討するための審議委員会を招集し、産業界の各企業もインダストリー4.0を自社戦略に組み入れる検討に入った。学会や工業会からも日本発のコンソーシアム設立の動きが出てきている。また、関連する日本発の標準規格としては日本ロボット工業会が2002年に制定した「ORiN」(オライン)と呼ぶ標準規格がある。

 これは、柔軟性に富んだプラットフォームであり、さまざまなロボットやPLCなどを装置に統合することがオープンなミドルウェアなので、CPSのような多機能・高機能なシステムをつくるには、よく当てはまるとみられている。とくに実装技術に長ける日本企業は、ORiNによって世界に先駆けてCPSを実装し稼働させていくことが十分期待できそうだ。

参考文献
1)川野俊充:ドイツが推進するインダストリー4.0の狙い、ロボット、No. 221、2014. 11、ロボット工業会

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