環境ソリューション企業総覧2015Web
三井物産

三井物産

■環境ソリューション企業編 08_総合ソリューション

経済と環境の調和を目指す「三井物産の森」
~国産材の積極利用で
 失われた60年を取り戻す。

 環境保護+伝統・文化・技術の伝承~


三井物産

www.mitsui.com/jp/ja/


他人事ではない、山林の土石流災害

 国土の約7割を占める森林大国の日本だが、GDPに占める林業の割合は1%程度まで落ち込み、何十年もかけて育てたはずの1ヘクタール当たりの杉材の価格が、下手をすると100万円を切ってしまうのだから、割に合わない。さらに、最近では放置された山林が人々の生活に影響を及ぼすようになってしまった。

 2014年8月20日、広島県広島市で発生した豪雨による大規模土砂災害のニュースは三井物産環境・社会貢献部社有林・環境基金室赤間哲氏にとっても他人事ではなかった。各地の三井物産に森の状況を調べ、安全を確認。「自分たちの山林は絶対に人々に危害を及ぼさないようにしなければならないと、ニュースを聞いて今まで以上に強く感じました」と災害当時を振り返る。

 「樹齢50年もの大木が流されたと聞いて驚きました。本来、樹齢50年の木だったらよほどの力がなければ倒せません。たまたま根の張りが弱い木だったのか、あるいはそれほどの大木を倒すほどの力が加わったのか、専門家の検証が是非とも必要です」(赤間氏)。

衰退する一方の林業・国産材

 「このところ多発している集中豪雨、ゲリラ豪雨は山林を所有する者にとっては脅威です。一時間に何百ミリもの大雨は今までに無く、想像を超えてしまっています」

と異常気象を嘆く一方で、現在の山林の保水力を考えると「全く想定外というわけでは無い」という。木が地面の土を根っこでグリップするその力が弱まっているから、雨が降ると地表の土ごと流されてしまう。

 日本の人工林を中心とする森林は、ほとんどが人の手を入れていないので、細い木が密集してモヤシのように生えている状態。間伐を行っていないので、根を深く張れる成木に育っていない。

 国は1950後半~60年、政策として山には生育の早い杉や檜の植林を奨励した。広葉樹に比べて、まっすぐ早く育つので建築材料として使える一方で、根の張りが浅いため、土をグリップする力が弱い。1960年代前半に戦後復興のために木材需要は旺盛で、国産材で足りない部分は輸入に頼らざるを得ず、政府は木材の輸入自由化に踏み切った。1970年代に入ると輸入木材が半分以上を占めるようになり、1980年代には円高の影響も加わり輸入材が市場を席巻するようになった。国内材の価格が急落し、採算が合わず人工林は放置されるに至った。

 現在、日本の山林の実に95%がこうした手入れをされていない状態で、このまま放置すれば、山林の土砂災害はもっと増えてしまうのではないかと心配される。

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図1 林野庁統計の1955年からの日本の木材供給と国産材推移グラフから<自給率は下降の一途>

木を使い、木に親しむ生活を取り戻す

 このような日本の現状をふまえ、「人が植えたからには人が伐採、収穫して使えるまで手を加える義務がある。それが成されないまま放置されているのが人工林を中心とする森林の問題です」(赤間氏)。

 今世紀に入り環境保全が叫ばれるようになると、熱帯雨林を中心に森林保全が強調され、森林は保全の対象で木は切ってはならないと誤解されがちだが、日本の人工林は事情が全く違う。人工林は積極的に、かつ適切に伐採して今まさに人間の身の回りで使うことを考えるべきであり、それが行われていないのが日本の森林問題の最大の課題なのだ。

 人工林で伐採した木を国内で正しく流通させること、川中の加工業者が競争力を持ち、川下の消費者が木を使うことで、川上の林業に始めて循環する流れができる。

 川上・川下の中間にある木材加工の川中にも問題がある。現在、日本で使われている木材加工品のほとんどが海外からの輸入品だ。特にプレカットと呼ばれる住宅用建材は多くが海外からの加工材がもとになっていると見て間違いない。これら安い輸入加工木材は集成材と言われ接着剤で固められているため、長期の耐久性は未知数だし、人体に対する影響も十分には検証されていない。安いからといって使うのではなく、国産材を使った安心・安全な木材を選ぶ消費者の目を養い、生活の中に国産材を取り戻すことが重要である。

 とはいえ今、われわれは鉄筋の事務所で働き、住宅まで鉄筋の比率が高くなっており、木材製品、特に無垢の木材にはほとんど触れることなく生活している。特に都会のオフィスで働くビジネスパーソンは自分の身の回りに一度目を凝らして見ると、いかに木材が使われていないかに気づくと思う。

 三井物産ではもっと人々の生活や仕事の場に木を取り戻そうと、さまざまな取り組みを始めている。同社本店の1階ロビーでは、オフィスでの国産材利用の推進を目的に「三井物産の森」の木材を活用した「木づかい」スペース『Forestarea(フォレステリア)』を2012年9月にオープンし、イスやテーブル、棚などを設置した(写真1)。訪問客や社員にこのスペースを活用してもらい、日本の森を守り・育てるための「木づかい」の重要性を発信し、都会のオフィスで木を使う提案をした。

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写真1 三井物産・本店ビルにある「Forestarea」

失われた60年を取り戻す、長期的視野にもとづいた理念

 三井物産の森林活用が他社に比べて特徴的なのは、企業として日本の森林が直面する問題に正面から取り組み、適切な森林整備や林業のあり方をトータルで考え、いろいろな手段で広く世の中に伝える努力をしている点にある。さらには林業を通じた日本の伝統文化・伝統技術の保護という新しい切り口も他社にはない特徴となっている。

 日本の国土は約7割が山林なのに、森林政策について国の対応が遅れており、今後はどうあるべきかといった将来の指針を打ち出せていないのも問題だ。

 現在、問題になっているさまざまな要因について、時代をさかのぼって考察すると、根本は昭和30年代の日本の林業政策にまで突き当たる。「森林関係に関しては日本は失われた60年です」(赤間氏)という言葉は重い。

 60年かけて失ったものを、あるべき姿に取り戻すためには一朝一夕では難しい。取り戻すためには長い年月が必要だ。したがって、三井物産の森林再生にも長期的視野や理念が含まれている。

伝統文化と技術継承への取り組み

 三井物産の森の一つ北海道・沙流山林はアイヌ文化発祥の地と言われている北海道平取町二風谷付近にある(写真2)。北海道の平取アイヌ協会及び平取町と協定を結び、アイヌ文化の保全・振興活動を行っている。伝統衣装であるアツシの原料となるオヒョウの木を植採したり、木材を使った伝統家屋であるチセの復興に協力している。

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写真2 北海道・沙流山林

 また、東日本大震災で被災した地域の活性化策として取り組むのが岩手県南東部の気仙地方に伝わる気仙大工の技の継承を通じた木材産業の再生である。気仙大工と呼ばれていた大工は木の持つ特徴を生かして、木材住宅の設計をする木材のスペシャリスト。地元の木材を使い、地元の風土に合った住居を造ってきた。彼らの技を伝承し、木材の積極利用と同時に被災地復興に役立つことが期待され、気仙大工建築研究事業協同組合と協働し、復興住宅建設にも取り組んでいる。

 また、気仙町の今泉天満宮境内に、三井物産の森の木材を使った子どもたちのための仮設木造図書館「にじのライブラリー」を2011年11月に開設(写真3)。この仮設図書館は、「子供たちへ<あしたの本>プロジェクト」として、「日本国際児童図書評議会」、「日本ペンクラブ子供の本委員会」、「日本出版クラブ」、「出版文化産業振興財団」が協賛して行う震災被災地支援活動の一環として運営されるもので三井物産が建設、「日本出版クラブ」に寄贈した。

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写真3 仮設木造図書館「にじのライブラリー」

三井物産の森を活用した具体的な取り組み事例

 三井物産は、こうした森林の現状、林業、木材産業の問題を単に嘆くだけでなく、具体的にさまざまな取り組みを展開し、持続可能な“100年単位の森づくりと人づくり”に挑戦している。同社の取り組みをピックアップして紹介しよう。

(1)出前授業

 主に小学生を対象に、森の役割や日本の森林、林業の仕事に関する授業で、日本各地で毎年12~13回開催して、延べ2000人以上が参加している。将来を担う子どもたちを対象に「森林の姿、木材の正しい利用」を伝える活動を環境教育の一環として実施している。

 2014年9月には「北海道エコ・アクション」の『森のフィールドツアー2014』に協賛している(写真4)。「北海道エコ・アクション」とは、道民・企業・行政・自治体が一丸となり、北海道を舞台に「低炭素社会の実現」「循環型社会の実現」「自然&野生生物の保護」に向けた具体的なエコ・アクションの実践をめざす北海道新聞社主催のプロジェクト。北海道は都道府県で最大の森林面積を持ち、同社も「三井物産の森」のうち8割が北海道にあることから、このエコ・アクションの企画に協賛し、「三井物産の森」の中でも代表的な森である似湾山林(札幌から車で約2時間)で年1回、日帰りの環境教育プログラム「森のフィールドツアー」と、屋内施設での「環境出前授業」を4年前から行っている。

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写真4 北海道エコ・アクションの「森のフィールドツアー」

 また、朝日新聞社の環境教育プロジェクト「地球教室」にも協賛している。そのプログラムの一つとして2014年9月に有楽町朝日ホールで開催された「かんきょう1日学校」には、全国から抽選で選ばれた小学4年生から6年生約100人とその保護者が参加した(写真5)。

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写真5 朝日新聞社の環境教育プロジェクト「地球教室」の「かんきょう1日学校」(昨年)

(2)ホームページ「森のきょうしつ」

 三井物産のホームページ(Web)上で展開している「森のきょうしつ」は1時間目の社会から6時間目の図工まで子どもを飽きさせない授業形式となっている。

 例えば、算数では「森のひみつをデータで解き明かそう」、国語は「森のめぐみについて本で学ぼう」、社会は「森のしごと『林業』って何だろう」、体育は「森林体験教室に行ってみよう」、理科は「自由研究で森のしくみを知ろう」、図工は「ペーパークラフトで森の生きもの作り」など、ここでは子どもから大人まで遊びながら森や林業について学べるように構成されているのがポイントだ(写真6)。

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写真6 森林・環境学習Webサイト「森のきょうしつ」

(3)森林体験「森のきょうしつ」

 「三井物産の森」に入り、森林や森に暮らす生き物に触れるとともに、間伐、植樹、枝払いなどの林業体験を行う。参加者に「自然観察」「林業体験」などを通じて、森の役割や人と自然とのつながり、森を育てることの大切さについて知ってもらう気付きの場を提供している。全国で年間約20~25回開催。特に都心から近い千葉県君津市にある亀山山林では、参加枠に対して10倍以上もの希望が殺到しており、毎回担当者の頭を悩ませるほどの盛況という。今年も亀山山林での森林体験「森のきょうしつ~親子でワクワク森のしごと編」を7月19日(土)~20日(日)の1泊2日で開催し、26組53名の親子の皆さんが参加した(写真7)。森の役割、林業の仕事、伐った木を暮らしの中で無駄なく使っていくことの大切さについて、さまざまな体験を通じて親子一緒に楽しく学ぶ機会となった。

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写真7 千葉県・亀山山林で森林体験「森のきょうしつ~親子でワクワク森のしごと編」の一コマ

(4)慶應義塾大学SFCでの寄附講座

 日本の大学では木造建築を教えるところが少ない。1959年、日本建築学会が木造建築を排除して、RC建築を奨励した結果である。木造の大規模建築を設計できる人はこの60年の間、どんどん減ってしまい、また、木造建築の許可をだす役所の人材も不足している。

 こうした状況を憂いた三井物産と大学関係者が2013年9月から木材利用や建築に関する寄附講座を実施したところ学生たちに人気で、この度、継続開催が決定した。

 これら活動により、木材や林業に興味をもつ若者が増加することが期待される。

もっと木のある生活を

 世界で最も古い木造建築は日本の法隆寺。日本人は古くから木の家に住み、木の箸で食事をし、木の風呂桶に入っていた。生活の場に木があるのは当たり前だった。いつしか木のまな板はプラスチックへと替わり、コンクリの床で転倒して大けがをするようになってしまった。

 しかし、転倒しても木の床ならば大きな事故にはつながらない。木造校舎では上手に湿気をコントロールできるため、インフルエンザの流行が少ないという研究結果もある。

 東京オリンピックでは外国人渡航者に対し、木の住宅の良さを知ってもらうチャンスでもある。「日本の意匠力をもって、木の良さをもっと多くの人に知っていただきたい」(赤間氏)。今後の日本の木材産業発展に期待したい。

 

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三井物産の森について

 三井物産は、北海道から九州まで全国74か所に合計約4万4,000ヘクタールの社有林「三井物産の森」を保有し、環境保全に配慮した林業を行っている。その広さは東京23区の約7割、日本の国土の0.1%の面積に相当する。2009年12月には、生物多様性にも配慮した林業を行うことによって、適正な森林管理を実現できているかどうかを客観的に評価・認定してもらうことを目的に、国際基準の森林認証FSC(R)認証(FSC(R)-C057355)をすべての森林で取得した。国内における1万ヘクタール以上の森林を保有する民間企業として同森林認証を取得した初の事例。
 三井物産の森の整備・管理を行っている関係会社三井物産フォレスト(株)職員と一体となって、林業を事業として適切に循環させることで、日本の環境保全をはかり、豊かな森林資源の大切さを次の世代へと伝える活動を続けていくとしている。

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