環境ソリューション企業総覧2015Web
東レ

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■環境ソリューション企業編 08_総合ソリューション

ライフサイクルマネジメントによる
地球環境問題への挑戦
~環境負荷の軽減と経済成長を目指して~


東レ

www.toray.co.jp/


地球環境問題

 地球環境問題が生じるにつれ、企業にとってもあらゆる場所での省資源化、省エネ化を通じた二酸化炭素(CO2)排出量の削減が求められている。国連の集計によると、世界の人口は2000年の約61億人から、2014年には72億人を越えるまでに増加した。2050年にはアジアやアフリカ地域での人口が引き続き増え、93億人に達する見通しという。人口が増えると、それだけエネルギーの消費量も上昇する。世界のCO2排出量は2009年が約291億トン、10年が約306億トン、12年が約326億トンと増加傾向にある。

 2013年における日本のCO2排出量は、京都議定書基準年(1990年)と比較し、約17%増加している。一方、世界のCO2排出量は同時期に約39%増加となっている。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に纏めている「第5次評価報告書」の各作業部会報告書においては、30年に1回以下の頻度で起こる異常気象や災害に繋がる極端気象が多発し、それによる人々の安全、社会生活、経済活動への打撃を懸念、CO2排出量を削減する「緩和策」と、気候変動の被害を軽減する「適応策」の両面での取組みが必要と指摘している。

LCAを意識した環境経営

 化学製品は一般的に生産時に多くの二酸化炭素を排出する。だが発光ダイオード(LED)照明やハイブリッド(HV)車、電気自動車(EV)といった次世代自動車や太陽光発電など、環境配慮型の製品に素材や材料が使われることで、ライフサイクル全体で、結果として地球上のCO2排出削減に貢献している。

 そういう意味で、CO2削減に貢献する最終製品に、化学製品がどれだけ貢献しているかを定量的に把握することが欠かせなくなっている。この動きを加速したのが、2011年10月に「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」と米国のシンクタンクである「世界資源研究所(WRI)」とが発表したサプライチェーン全体のCO2排出量を算出するルールである「スコープ3基準(スコープ3)」である。

 製造時などに自社が排出に直接的に関係している「スコープ1」に対し、「スコープ3」は、購入した材料や販売した製品の加工や輸送、使用など、間接的な要素を全て含んでいる。つまり化学製品が製品化されるまでにどれだけのCO2を排出したかのみを公開するルールであり、排出削減貢献に関するルールまでは言及されていない。一方、日本化学工業協会(日化協)は化学関連企業が製品によるCO2削減貢献量を公表する際の指針を作成すると発表(2011年8月)した。原材料の採掘から生産、輸送、使用、廃棄までの商品一生分の環境負荷のうち、CO2に特化した「c-LCA(カーボンライフサイクル分析)」のガイドラインを作り、削減貢献を公表する際の目安とするのが狙いだ。背景には算出企業が増える一方で、計算方法が各社によって異なるといった課題があったからだ。

 各社とも本格的な対応が迫られる中、繊維最大手の東レは環境対策に企業経営を絡めた戦略を打ち出した。2009年3月に開いたIRセミナーで「地球環境に軸足を置いた東レの新成長戦略」を公表。企業が環境問題に向き合いつつ、成長戦略を図るというものだ。現在、東レが省資源化に貢献する素材で構成する「グリーンイノベーション事業」の拡大に通じるものだった(図1)。

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図1 航空機や水処理などラインアップは豊富だ

 ライフサイクル全体で二酸化炭素の排出削減につながる先端材料やソリューションを強化するもので、カギとなるのが技術力だ。

 環境に配慮した素材を供給しながら、最終製品にした際にCO2の排出削減に貢献できないか。素材メーカーが抱える共通の課題だ。

 東レでは09年5月に「地球環境事業戦略推進室」を発足。東レグループの地球環境戦略を全社的に進めるという、大きな目標を掲げた。11年には環境・エネルギー分野の総合技術開発のため「E&Eセンター」を開設している。同センターは東レグループ全体の環境やエネルギー分野の技術開発拠点として、新規事業の創出などを目指している。コア技術である有機合成や高分子、バイオ、ナノテクを生かしながら、新エネルギー、バイオマス由来、水処理、空気浄化などの技術に対して地球温暖化防止と環境負荷軽減を促進する役割が期待される。

 そのために重視したのがライフサイクルアセスメント(LCA)の思考プロセスだ。例えばガソリン自動車の場合、通常の使用条件であれば製造段階で排出するCO2に比べ、使用段階で排出するCO2の方が圧倒的に多くなる。一方、自動車の軽量化素材として注目を浴びている炭素繊維は、鉄の4分の1の軽さにも拘らず、鉄の10倍の強度、錆びないといった魅力的な素材だ。炭素繊維は一般的に製造時にエネルギーを多く使用するが、これを自動車に採用して軽量化すれば、燃費向上に寄与し、使用時に大幅なCO2削減が期待できる。これによって、ライフサイクル全体では炭素繊維がCO2を大幅に削減するということが理解できるだろう。もし炭素繊維の製造だけに着目していれば、このようなCO2削減に貢献する素材の開発が鈍る恐れもはらむわけだ。

 日本化学繊維協会の炭素繊維協会委員会は、自動車や航空機での軽量化に伴うCO2の削減効果をまとめている。自動車の現行モデルは1380キログラム程度だ。これに対して、車体重量の17%に炭素繊維強化プラスチック製(CFRP)を使用した場合、970キログラムで済み、車体重量を30%軽くできる。航空機の場合、原材料や製造段階でのCO2発生量はやや多くなる。ただ、航空機のライフサイクル寿命を10年とした場合、中型旅客機1機当たりのライフサイクルCO2削減効果(炭素繊維製造時を含む)は合計で2万7000トンにもなる。メーカーとして、製造段階におけるCO2削減には責任がある。しかしより重要なことはCO2排出量の大きな段階への対策であり、ライフサイクル全体で如何にCO2を削減するかという視点である。東レ・地球環境事業戦略推進室長の畑慎一郎氏は、「自社の領域だけでなくサプライチェーン全体で最適化を考えることは、環境問題への貢献とあわせて、企業の技術開発を促していく意味でも重要」と話す。LCAの活用意義に関する重要な指摘である。

環境負荷の軽減と価格競争力の両立を目指す

 東レでは前章で述べたようなLCA分析に基づいた、ライフサイクルを通じて地球環境へ貢献する経営としてライフサイクルマネジメント(LCM)の必要性を強く打ち出している。

 一例がLCAに基づく独自の環境貢献指標「CO2削減貢献量」だ。開発した評価対象製品のライフサイクル(原料採取、製造・流通、使用、廃棄)全体のCO2排出量合計を、比較対象製品のCO2排出量合計から引く。数値が大きければ大きいほど、削減貢献量も高いことになる。

 環境分析ツール「T―E2A(TORAY EcoEfficiency Analysis)」は、製品のライフサイクルで発生環境負荷項目と製品の経済的負担を定量化し、パソコン上で同一機能の複数製品を比較したり評価したりすることが可能だ。地球環境負荷(LCA)と経済性をライフサイクルで定量的に“見える化”する機能を持たせた。同システムのユニークな点は、ライフサイクルコストの観点も踏まえたものであること。東レが掲げる「持続可能な低炭素社会の実現に貢献する」という東レの理念の最終ゴールは環境負荷の軽減と同時に、経済的に持続可能な製品にほかならないからだ。

削減はサプライチェーン全体の貢献

 日本化学工業協会(日化協)が作成を表明していたガイドラインは「CO2排出削減貢献量算定のガイドライン」として12年2月に発行された。同ガイドラインの6ページにあるCO2排出削減貢献量の算定方法は、東レの手法がベースになっている(図2)。評価対象製品と比較製品においてのライフサイクル全体のCO2排出量を算定し、その差分を求めるというものだ。

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図2 CO2排出削減貢献量の算定方法のイメージ

 さらに、2013年10月には日化協版のガイドラインをベースに、WBCSDケミカルセクターと世界各国の化学工業団体が所属する国際化学工業協会協議会(ICCA)の共著でCO2削減貢献量算定の国際ガイドラインが発行された(図3)。

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図3 国際版CO2削減貢献量算定ガイドライン

 この原案作成に日本企業として携わった東レは、CO2削減貢献という概念、手法を広めるには、世界中で共通の信頼できるルールが必要であり、それが完璧ではなくてもまず走りだすことが重要と考える。例えば、関心が高いサプライチェーン内の寄与率の算出方法については、日本版でも国際ガイドラインでも現時点で結論は得られていないが、今後も継続してブラッシュアップを目指している。

 自動車など複数のメーカーが持ち寄って製品が作られる場合、寄与率をどのように算定するかは企業の利害関係に絡む可能性がある。サプライヤー同士が寄与率を奪い合ったり算定を有利に働かせようといった懸念もある。さらに寄与率が低ければ、今後の材料開発が遅れてしまう可能性もはらむ。

 「CO2削減貢献量」で東レが寄与率を考慮しない指標として定めたのも、このためだった。新素材を採用した完成品と、既存素材を使った完成品をライフサイクル全体のCO2排出量の合計をもとに貢献量を評価するのは、あくまでも完成品ベースでの削減量が評価対象だ。畑慎一郎氏は「重要なのは、だれがどれだけ削減したかではなく、サプライチェーンに係わる全ての企業の製品が協力して最終製品が作られたということ。そして、その製品がCO2削減に役立つならば、製造、販売を伸ばしていくべきであるということです。」と語る。

 地球規模の大きな課題に対しては、一つの技術領域だけでは解決は難しい。業界の垣根を越えて結集を図るためにも、環境と経営という二つの柱を意識した戦略を進めている。

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