環境ソリューション企業総覧2015Web
ポラスグループ・株式会社中央住宅

ポラスグループ・株式会社中央住宅

■環境ソリューション企業編 06_住・生活環境対策

歴史ある「内蔵」を移設・保存した分譲住宅が
埼玉県越谷市に誕生


ポラスグループ・株式会社中央住宅

www.polus.co.jp


 埼玉県越谷市内で、江戸時代の末期に建てられ現存する「内蔵」を移設・再生して、4棟の分譲住宅の一角に保存するという一風変わった街づくりが進められている。埼玉県や千葉県のほか、東京都の一部を商圏に、木造一戸建て住宅などを建設・供給しているポラスグループの中央住宅が展開している「ことのは越ヶ谷 蔵のある街づくりプロジェクト」がそれだ。歴史のある建物を積極的に利用・活用する仕組みをつくることによって、地域の風景を未来に残していくことを目的としたプロジェクトである。蔵に使われていた構造材などは分譲住宅の内装部材に再利用するほか、4棟もそれぞれに意匠を凝らしている。環境配慮と景観保存に向けた新しい試みとして、多方面から注目されている。

旧日光街道沿いに残された「内蔵」を
曳家―地元小学校の児童100人が力を合わせ移設

 越谷市は江戸時代の旧日光街道の大規模な宿場町のひとつで、現在でも蔵や古民家が旧街道沿いに点在している。しかし、地主や所有者の高齢化に加えて相続や建て替え、開発が進展し、歴史を感じさせる景観や街なみが失われつつあるのが現状だ。

 中央住宅が街づくりプロジェクトを進めているのは、東武スカイツリーラインの越谷駅から徒歩約5分の越谷市越ヶ谷3丁目。計画地には「内蔵」「米蔵」「粕蔵」の3棟の蔵が使われないまま残されていた(図1)。保存状態を調査した結果、「米蔵」と「粕蔵」は老朽化が激しかったものの、「内蔵」は保存状態が比較的良いことがわかった。

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図1

 同社は蔵を保存すると同時に、「蔵のデザインを踏襲して、和のテイストでまとめた分譲住宅を建設し、新旧の織りなす原風景を周辺の街に広げる発信基地にしよう」とプロジェクトを始動させた(図2)。

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図2 ことのは 越ヶ谷 蔵のある街づくりプロジェクト

 最初に行ったのが、計画地の奥にあった内蔵を曳家(ひきや)と呼ばれる工法で180度回転させ市道の前面に移設すること。因みに曳家は基礎から上の建屋部分をジャッキアップして土台から切り離し、間にレールを挿入してゆっくりと引きながら移動させて据え付けるというもの。青森県の弘前城や東京・港区の赤坂プリンスホテルの移設・改修工事でも使われた、我が国の伝統的な工法である。

 曳家を担当したのは、越谷市内で四代にわたって家業を続けている㈲野口組。同社では「総重量が100トンにもなり、建築されてから150年以上も経過する市内に残る貴重な建物だけに、細心の注意を払って曳きました」と語っていた。曳家は2回にわたって行われた。一度目は真横に移動させ、二度目に前面に押し出す形で据え付けた。

 昨年10月に行われた二度目の曳家では、街への愛着を育成して「蔵のある街」に住まうことの関心を高めて貰うため、地元小学校の児童約100人を招いて、子供たちが親綱を引く体験学習も開催された。初めはびくとも動かなかった蔵も、子供たちが力を合わせたことでゆっくりと動き始め、約30分をかけて据え付け場所に移動した(写真1)。子供たちや見守っていた父兄、近隣の住民たちから大きな歓声があがった。

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写真1 曳家を体験する子どもたち

 

壁材や屋根瓦を再利用、建築時に蘇らせる
―白漆喰や室内の設えも当時のままに補修

 中央住宅では昨年12月から蔵の補修を開始、7ヵ月をかけて今年7月に完了させた(写真2、3)。蔵の外壁は第二次世界大戦での空襲を逃れるために黒色に塗られていたが、補修工事では本来の白漆喰に改められ、建設当時の姿に再生された。くすんで一部が崩壊していたものの、補修によって眩いばかりの白色の姿が浮かび上がった。

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写真2 蔵外観

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写真3 蔵1階内観

 屋根瓦も使用に耐える瓦は極力使用することにして、内装も建設当時に近い姿に改められた。老朽化が激しかった「米蔵」と「粕蔵」は使用に耐えられずに解体されることになったが、敷石や灯篭も蔵のアプローチや新築される住戸の外構部材として利用し、以前の蔵に使用されていた構造材は、空間にアクセントを付ける化粧柱に再利用するなど、歴史を重ねてきた古材を上手に活用している。

 補修が終了した蔵の内部に入ると、一抱えもある梁が木造らしさを表していた。床や壁面にも豊富な木材が使用され、取材に訪れた当日は暑い盛りだったが、木造の特徴のひとつである調湿性などから、外気より一段と涼しく感じられた。

 現代生活に欠かせない電灯類やコンセントのほか洗面・水回り設備などは、蔵の雰囲気を壊さないように極力目立たない工夫もされていた。蔵の周辺を取り囲むように植栽が施され、緑と白漆喰の外壁が絶妙のコントラストを描いていた。

分譲住宅も独自開発の部材で蔵と調和
窓格子や珪藻土塗り壁で環境面に配慮

 現地ではコの字型の計画敷地の入口部分に新装された蔵が移設され、今年5月から蔵を取り囲むように4棟の木造軸組工法の分譲住宅が着工されている。開発面積は約645m2だが、このうち蔵の敷地面積が6分の1弱の約100m2を占める。住居部分の敷地は1戸あたり105~125m2、延べ床面積は101~108m2の3LDKタイプとなっている。

 街のシンボルになる蔵と調和するため、4棟の外装材の一部には大谷石調のALCパネルを採用することにしている。大谷石の石目を忠実に再現したこのパネルは、ポラスグループの一社である「ポラス暮し科学研究所」が独自に開発したものだ。竣工すれば、蔵の白漆喰と大谷石調の外装材が落ち着いた光景を醸し出すはずである。

 主だった開口部には窓格子を採用して、和の彩りと和風感を強調することにしている。古き良き日本の住まいを現代風にアレンジした間取りには、熟練した職人の手仕事を生かしたオリジナルの「侘び土」「寂び土」を使った塗り壁を採用する。これもポラス暮し科学研究所が独自開発したもので、グッドデザインに登録され、環境面だけでなく健康にも良い珪藻土による仕上げとなっている。

 4棟はそれぞれに「土間のある家」「濡れ縁のある家」「茶室のある家」などといった特徴のあるプランづくりを行っている。蔵と4棟の分譲住宅の間には4メートル幅のコミュニティー道路が配置されており、隣近所の居住者同士が語らいを楽しめるよう工夫されている。

 4棟の分譲住宅は、今年12月上旬にも竣工する。中央住宅では竣工後に完成見学会を開催し、来年1月にも販売を開始することにしている。

地元に寄贈し市民の憩いの場に
古き良いものを次代に引き継ぎ

 ポラスグループでは、これまで豊富な植栽と住環境を重視した子育て世代向けの一戸建て分譲住宅、団地の中央にコモンスペースを配置して購入者全員が敷地などを共有する分譲住宅、風の通り道や雨水利用などを導入してCO2の削減を図った環境対応住宅など、さまざまな近未来の環境住宅を供給してきた実績を誇っている。

 今回の「ことのは越ヶ谷 蔵のある街づくりプロジェクト」も、歴史のある建物を積極的に活用して、環境を重視した街づくりとして注目に値するものである。

 補修が完了した蔵は、今後、越谷市に採納(寄贈)することにしており、利用方法についても市と協議することにしている。採納することに決めたのは、「移設された蔵を未来につなぐために、所有者の事情に左右されないように」と考えたからだと中央住宅では説明している。

 中央住宅では、この蔵を居住者だけでなく近隣住民や市民の間で交流が楽しめ、情報発信基地や街なみ相談所などとして活用できるコミュニティーの“場”にしていきたいと考えている。

 また、蔵のある景観が永久的に保たれるように、越谷市との間で景観協定の締結を目指している。締結されれば越谷市初の景観協定になるという。蔵そのものも有形文化財として登録を予定している。

 同社では「地元の越谷市を中心に住宅事業を展開してきた当社グループだからこそ、失われつつある旧日光街道の景観を取り戻す責務があると考えています。地域文化の醸成を図り、これからも街なみを重視した住宅供給に邁進していきます」と、環境に配慮して街なみを重視した事業展開を行うことにしている。

 歴史的に価値がある建築物に触れると、何故か心が落ち着くことがある。木造住宅は使われている木材の内部に、地球温暖化に悪影響を与える温室効果ガスの1つである二酸化炭素の元となる炭素を固定化している。木造住宅が環境に良いといわれる所以だ。コンクリートの近代的な建築物も良いが、我が国伝統の木造による建築物を残して、未来につなげていく試みは称賛に値するだろう。

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