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インタビュー 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 大平英二主任研究員

インタビュー 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 大平英二主任研究員

■特集 特集2 社会生活に恩恵をもたらす最新環境対策

期待される本格的な水素社会の到来


国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
大平英二主任研究員に聞く
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聞き手:環境ソリューション編集部


 水素エネルギーが国家政策の中で大きく取り上げられ、盛り上がりをみせている。2013年6月発表の「日本再興戦略」の中で、家庭用燃料電池及び燃料電池自動車が、水素エネルギー発展のカギとして位置づけられたのである。エネファーム及びFCV、さらに今後の発電用水素エネルギーなど需要拡大への期待が高い。ここでは、水素エネルギーの近況を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部燃料電池・水素グループ主任研究員プロジェクトマネージャー大平英二氏に聞いた。

エネファームやFCV等、官民一体の取組みで
水素エネルギーがクローズアップ

 2009年、家庭用燃料電池「エネファーム」が発表(図1)、さらに2011年には2015年目標にFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)投入の共同声明が自動車会社及びエネルギー事業者から出され、2013年には一層現実味を帯びてきた。

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図1 家庭用燃料電池「エネファーム」

 2014年4月には経済産業省により「エネルギー基本計画」が改定され、水素がこれまでになく大きくクローズアップされるようになり、熱と電気に次ぐ将来の二次エネルギーとして期待された。エネファーム及びFCVにとどまらず、水素エネルギー自体の利活用拡大の仕組みが必要と詠われた。同年6月、経済産業省から「水素・燃料電池戦略ロードマップ」が発表、国として本腰をあげることが明確となった。7月にはトヨタが燃料電池自動車を発表、具体的な価格も明らかになり金融機関等も関心を持ち始め一層現実感は増した。

家庭用燃料電池「エネファーム」普及のカギは
価格や集合住宅向けニーズ

 NEDOは1980年設立後、省エネルギーの一環として1981年から、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)等の開発に取り組んだ。1992年からは固体高分子型燃料電池(PEFC)にも取り組んだ。さらに1993年には、海外で水素をつくり日本に持ち込むための要素技術を開発するプロジェクト「WE―NET」(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術研究開発)を始動させた。

 そして2000年に、日本ガス協会や東芝、パナソニックらと共に家庭用燃料電池のプロトタイプをつくり、TVコマーシャル等で馴染み深い「エネファーム」に発展していった。

 このエネファームの家庭への設置には、規制の壁があった。例えば専門的資格を所持する人による常時監視、家屋からの一定距離確保、各種保安機器の設置などであるが、安全性に関する様々な試験を行った結果、規制が見直しされ、一般電気工作物(太陽光発電と同じ取扱い)となった。その後、2005年~2008年にかけて、日本全国で現モデル3300台を家庭で実際に使用し様々なテストが行われた。この実環境下でのデータが、その後の商品化へと展開された。こうしたことから現在、新築の一戸建てを中心にエネファームは12.5万台普及している(経済産業省)。現在の価格は160万円程度、国や地方自治体からの補助金を加味すれば100万円程度で購入できる。

 今後、さらなる普及に向けては、より低価格化(国の目標では2020年時価格の半分程度が理想)のほか、集合住宅用や海外展開等といった新たな市場開拓が期待される。仮に80~90万円で購入できれば、概ね10年で投資回収可能という。さらに価格が下がれば5~6年での投資回収も考えられ、2030年530万台普及という目標達成が期待される。

FCVがもたらす水素エネルギー利用のための社会基盤づくり

 FCVは地球環境問題の解決、持続可能な社会の実現に向けて、自動車メーカから出された一つの解といえる。理想的にはCO2フリーの水素を用いた燃料電池であれば、大幅に地球上のCO2削減に貢献できよう。EV(Electric Vehicle:電気自動車)の場合はトータル的にCO2削減効果が高いが、FCVには長距離運転や燃料充填時間が短いメリットがある。EVとFCVは適材適所でいくものと考える。

 FCVは、水素をエネルギーとして街中で利活用するという大きな意義がある。FCVを導入することで、例えば水素ステーションといったインフラの構築や、水素をハンドリングするためのルール作りも進む。従来にない新たな社会基盤の構築に大きな意味がある。

 2000年初頭には、実環境下での走行試験が始まった。FCVの性能、耐久性や利便性を検証するとともに、水素を充填させる水素ステーション(写真1、図2)の開発も進められた。

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写真1 商用モデルの海老名中央水素ステーション

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図2 水素エネルギーシステムの技術開発のイメージ

 2002年には、試験的に燃料電池による東京都バスが東京駅とお台場間で運行したし、2005年の愛知地球博でも運行、また最近では空港内のランプバスやリムジンバスといったフリート走行としても実証が進められた。

(1)わが国で世界に先駆けて作られたFCVの安全対策基準
 FCVの普及にあっては、水素を安全に利活用するためのルールづくりが必須だった。このため、高圧水素の物性や材料への影響、水素漏洩時の拡散シミュレーションといった基礎的知見の蓄積や、実環境も想定した衝突や火災試験など、様々な角度から安全に関する試験・研究が取り組まれてきた。

 その成果として、2005年には、FCVの安全対策基準が世界に先駆けてつくられた。水素は大気中4~75%の濃度範囲で燃焼する。したがって漏らした場合でも、そこに蓄積させないようにしなければならない。そのような理由で、水素の安全性に対する考え方は、基本的に漏らさないことが肝要で、漏れても滞留させない、漏れたら検知し遮断するといことであり、この考え方に基づき、技術的な対応が講じられている。

 世界的なFCVの規格も、日本の安全対策基準に基づくところが大きく、国連のGTR(Global Technology Regulation)と呼ばれる規格がそうだ。

(2)充填に関する国際標準
 FCVへの水素供給についても規格化が進んでいる。例えば、水素の充填口、いわゆるコネクタの形状についても国際規格が定められており、世界共通となっている。具体的には、350気圧の水素を充填するものと、700気圧を充填するものとの2種類あり、350気圧対応の車に700気圧の水素を安全上充填できないようになっている。また、700気圧の水素を3分で安全に充填するための手順(充填プロトコル)や水素の品質、計量あるいは燃費の計算方法に関する規格も存在する。

さらなる水素の需要拡大に向けて
―発電ニーズへの期待

 NEDOでは、次の段階として水素の更なる需要拡大をめざしている。その有力なニーズの一つが発電だ。ガスタービンの燃料として、従来の天然ガスに代わり、あるいはそれと一緒に水素を利用するのである。これにより燃焼プロセスでCO2の発生を抑制できるのでクリーンエネルギの実現を可能とする。このことは前述ロードマップにも詠われている。一方、発電で利用するためには長期に亘って安定した水素の供給が不可欠である。

(1)長期にわたる安定な水素供給のカギ
 実は、海外では現在十分活用されていない資源がある。例えば、オーストラリアには水分を多く含む石炭(褐炭)が大量に賦存するが、低カロリーで、発火性があるため長距離の輸送が困難という理由で現場での発電としてしか利用されていない。この褐炭をガス化し水蒸気と反応させて水素に転換することにより、輸送可能なエネルギーとしようとする取組みを開始した。いま褐炭は、日本のニーズ換算で何百年分も眠っているという。オーストラリアではCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:排出されたCO2を地球環境に影響を及ぼさないよう地中に安定かつ安全に貯留・隔離する技術。CCSについては本書2014年版p.24参照)と組み合わせて、褐炭の蒸し焼きで発生するCO2を海底に貯留させようという取組みもある。これがうまくいけば、オーストラリアは水素を武器に、有力な資源国になるのかもしれない。

 また、石油や天然ガス採掘時の随伴ガス、化学や鉄鋼プラント内で副次的に水素が発生するのでこれを資源として活用する方法もある。

(2)海外から水素をどう日本に運ぶか
 そして重要なことは、海外で作った水素をどのように日本に持ち込むかだ。水素は体積当たりのエネルギー密度が低いので、ガスのままでは輸送効率が悪い。このため253℃に冷却して液化水素とする、あるいは有機ハイドライドに転換して密度を高める取組みを進めている。海外の未利用資源を活用し水素を製造、これを貯蔵・輸送し、国内で水素発電として利活用する、このサプライチェーンの構築を目指したプロジェクトが始動している。

(3)再生可能エネルギーのポテンシャルを最大化
 再生可能エネルギーの利活用が進む中、接続保留という問題が顕在化してきた。すなわち、需要以上の発電量は受け取れない、という動きである。これは再生可能エネルギー自体の不安定さや需要・供給のアンバランスが影響しているからだ。この課題に取り組むために、水素の活用法が考えられている。水素は電力を大量に、かつ長期間安定的に貯蔵できる、輸送可能、電気や熱として利用可能という特徴がある。このメリットを生かし、新しいエネルギーシステムを構築しようというものだ。再生可能エネルギーの普及拡大は蓄電技術にかかっているといっても過言ではなく、中でも水素はかなり有力といえる。すでにヨーロッパでは、余剰電力を水素に変換して貯蔵し、利用しようという動きもある。

水素エネルギーは時間及び距離を超え
さまざまなものをむすびつける

 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでも水素エネルギーの利活用が決まっているなど、その年はキーポイントにもなりそうだ。本格的に水素を利活用していくためコスト、安定供給など課題は多い。また、なぜ水素が必要とされるのか世論的にも浸透していない部分があり、理解を深めていくことも不可欠である。いまの利便性を極力損なわず、持続可能な社会を実現するためには様々な方策が必要であるが、水素は有力なオプションの一つであり、社会に浸透していくために、一つ一つ課題をクリアしながら地道に進めていくことが求められる。

 水素は様々なものを接続する役割をもっている。たとえば、前述の褐炭は現地での発電としてしか使えなかったものが、水素に転換することによって、自動車や家庭でのエネルギーとして利用可能となり、新たなエネルギーシステムを構築することができる。また、いわば「生もの」である電力を、水素で貯蔵することにより時間をずらせて利用できるようになる。水素は、エネルギーを時間や距離などを超えて利活用でき、しかも様々な利用方法が可能という、新たなエネルギーの関係を構築できる、フレキシブルな社会を実現させる大きなポテンシャルを有している。

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