環境ソリューション企業総覧2015Web
インタビュー 環境省 岡野隆宏室長補佐

インタビュー 環境省 岡野隆宏室長補佐

■特集 特集2 社会生活に恩恵をもたらす最新環境対策

企業理念にも必要とされる生物多様性


環境省 岡野隆宏室長補佐に聞く
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聞き手:環境ソリューション編集部


 2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、2050年までに「自然と共生する社会」の実現をめざし、これ以上の生物多様性が失われない行動をとることが決議された。いま、生物多様性は、企業経営の理念にも盛り込まれることが必要とされつつある。

 ここでは、生物多様性がいま、なぜ企業にとって重要になっているのか、環境省 生物多様性施策推進室の岡野隆宏氏に聞いた。

生物多様性とは

 すべて地球上の生物は、40億年の長い歴史の中で、幾多の様々な環境に適応して進化をとげ、いまその種類は未知のものを含めると、3000万種に及ぶという。これら膨大な種類の生物たちは互いに個性をもち、そして食べる、食べられるなど、各々が網の目のような様々な直接・間接の関係及びつながりのもと、実に長い年月をかけて進化してきた。一言でいえば、これが「生物多様性」といわれるものだ。

 この生物多様性がもたらしてくれる恵みを、「生態系サービス」と呼び、まさに、これにより私たちの命や暮らしは支えられている。

 世界全体で生物多様性を保存すべく1992年5月につくられた「生物多様性条約」によれば、生物多様性をすべての生物間の変異性と定義し、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3レベルがある、としている。

 もちろん人間も地球という生態系の一員であり、生態系サービスの恩恵のもと、こんにちの存在があることはいうまでもない。たとえば、米や野菜、魚、水など食物、家屋の木材や衣料、あるいは山や川、海といった景観及びその土地固有の文化を生み出すこと、そして自然の仕組みから技術革新の着想を得ることも生態系サービスの恩恵そのものなのだ。

 しかしいま、人間活動の影響により生物種の絶滅速度はここ数百年で1000倍に加速し、また世界の森林生態系が年間約7万3000km2減少(日本の国土面積の約5分の1)しているといった危機的現状にあることから目をそらすべきではない。こうした危機的状況に対処し、生物多様性を保全するには、国民はじめ企業、民間団体、地方公共団体そして国といった社会全体での取組みが欠かせない。特に企業は、事業活動を通じて国内外の生物多様性に関わり、かつ製品やサービスを通じて消費者たる一般市民と共に生物多様性に関わっているので、社会的にも重要な役割を担っているのだ。

生物多様性への対応は企業等事業者にとっても
重要な社会責任の要素

 2009年8月、環境省は「生物多様性民間参画ガイドライン」を公表した。これは、生物多様性への企業(事業者)の参画を促し、その保全と持続可能な利用を促進させることを目的としている。とくに、初めて生物多様性の保全などに取り組む企業の実務担当者にも参考となるような情報が豊富で、多くの業種にも共通する一般的指針となっている。

 図1に事業者すなわち企業の事業活動等と生物多様性の俯瞰図を示した。人々の食料や飲料水、衣服の材料、住居や紙の材料である木材などは、山や海、田畑等から産出される。これらは様々な企業活動を通じて原材料として使用され、かつ加工、流通されて届けられている。その後はまたリサイクルにより再利用されたり、廃棄物処理される。このように、企業における事業活動は、物質の供給面に着目しただけでも生物多様性に依存しているのだ。図1から明らかなように、このことは農業や林業、漁業、建設業、製造業、金融業、小売業、ホテル、マスメディア、病院、リサイクル・廃棄物業者ほかあらゆる事業においても依存している。

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図1 事業者の活動等と生物多様性の俯瞰図(環境省)

 生物多様性の保全と持続可能な利用の取組みを進めるにあたっての基本原則は次の3つだ。第一が、生物多様性に及ぼす影響が回避されまたは最小となるよう、土地と自然資源を持続可能な方法で利用するよう努める。第二が、一度生物多様性を損なうとその再生は困難もしくは事実上不可能なので、科学的知見の充実に努めつつ、生物多様性を保全する予防的な取組み方法や、事業等着手後に生物多様性の状況を継続的にモニタリングしながら、その結果に科学的評価を加え、これを事業等に反映させる順応的方法を用いるよう努める。第三が、長期的な観点から生態系等の保全と再生に努める。

 生物多様性民間参画ガイドラインは、次のURLでダウンロードできる。
http://www.env.go.jp/nature/biodic/gl_participation/download.html

愛知目標の達成は
「自然と共生する社会」の実現を占うキーポイント

 COP10では、今後10年かけて生物多様性をよりよい形で受け継いでいくための20の国際的な目標、愛知目標が合意された(表1)。目標の1が根幹となる項目で、「人々が生物多様性の価値及びその保全と持続可能な利用のための行動を認識する」である。これは、以下の項目に詠われている企業のみの努力にとどまらず、商品等を購入する消費者のライフスタイルも変わっていくことも重要であることを意図している。

表1 愛知目標と国別目標の関係(環境省)
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 また、産業に関連するものとしては、たとえば4の「すべての関係者が持続可能な生産・消費のための計画を実施する」と詠われ、6の「水産資源が持続的に漁獲される」、7の「農業・養殖業・林業が持続可能に管理される」、8の「汚染が有害でない水準まで抑えられる」などが、事業活動に関係の深い内容である。

 愛知目標は、国際社会が合意したものであり、企業を含むすべての者がしっかり遵守していくことが求められている。

 いま大企業を中心に、生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた取組みを行うところが着実に増えてきた。それは、生物資源の長期的確保と調達安定化、商品ブランドの価値向上と新たな顧客獲得、社会的投資等を重視する投資家へのアピール、新技術等による市場創出、従業員の満足度向上及び人材確保等につながり、企業活動の持続可能性を保証するからだ。

 環境省では、企業や事業者団体による取組みを促進するため、先進的・模範的な取組み事例やビジネスセクターが目指す将来像等をとりまとめた冊子「生物多様性に関する民間参画に向けた日本の取組」を作成し、生物多様性民間参画ガイドラインと併せて普及を進めているほか、事業者団体向けの手引き(素案)の公表やモデル事業の実施などにより、取組みを後押ししているところだ。

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