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インタビュー 三菱航空機 黒沢英図グループリーダー

インタビュー 三菱航空機 黒沢英図グループリーダー

■特集 特集2 社会生活に恩恵をもたらす最新環境対策

国産初のジェット旅客機「MRJ」の環境対策


三菱航空機 黒沢英図グループリーダーに聞く
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聞き手:環境ソリューション編集部


 国産初のジェット旅客機「MRJ」(Mitsubishi Regional Jet)の初飛行が、いよいよ2015年9月~10月にせまってきた。MRJは、世界最先端といわれる空力設計技術の適用、高効率かつ運航経済性に優れたエンジンの採用により、騒音はじめ排出ガス対策そして大幅な燃費低減を実現させる。

 ここでは、三菱航空機コーポレート本部総務・広報グループ広報担当グループリーダー黒沢英図氏にその背景を聞いた。

YS―11以来凪いでいた日本の航空機開発にMRJが新たな風

 日本が国産旅客機開発に本腰を入れたのは、あのプロペラ旅客機YS―11で1960年代のことだ。それまでは戦後からGHQにより、航空機研究・製造が堅く禁止されていたのである。やっとの思いで製造したYS―11は技術的には申し分なく優れていたが、コスト高や経営不振で182機まで製造した1971年、ついに製造を中止せざるをえなくなってしまった。

 しかし日本の航空機産業は、まさにモノづくりを支え大きな経済効果を見込める今後の主力産業だ。したがって、半世紀ぶりのMRJ事業化のニュースは業界活性化に向けて非常に大きな躍進のキッカケとなった(写真1)。

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写真1 MRJ(三菱航空機)

 航空旅客は今後20年間で、現在の3倍にまで膨らむと予測されている。MRJは、70~90席クラスのいわゆるリージョナルジェット旅客機市場への参入をめざしており、この市場も今後20年間で全世界において5000機以上の新規需要が見込まれている。

MRJの環境対策―優れた騒音、排出ガス、運航経済性の対策

 MRJは、ことさら環境への優しさに注力を注いでいる。最新の騒音基準である「ICAO Chapter4」及び排出ガス基準である「ICAO CAEP6」を充足させており、このクラスでは、最高の静かさ及びクリーンさを実現させたリージョナルジェット旅客機となっている。また最新鋭エンジンPW1200Gが果たす役割も重要だ。

 図1は、MRJ及び従来機離陸時に70dB以上となる騒音域を表している。図1から明らかなように、従来機にみる70dB以上の騒音域が約9kmに対して、MRJ90の場合は約6kmでほぼ40%も改善されている。一方、図2は排出ガスの状況を表している。これは、MRJと従来機A及びBとの比較で、NOXが約50%、COが約70%、HCが約85%、排煙が約70%とそれぞれ大幅削減させている。このように、上記の騒音基準及び排出ガス基準であるICAOを充足させているのである。

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図1 MRJの騒音対策(三菱航空機)

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図2 騒音・排ガス基準(三菱航空機)

 もう一つの環境対策としては、エンジン特性を欠かすことができないであろう。MRJには、「PurePowerPW1200G」(写真2)と呼ばれる最新鋭型エンジンが搭載される(Pratt&Whitney社製)。このエンジンは、環境適合性の向上に加えて、高効率で運航経済性の向上を実現させる。具体的には、従来のエンジンが、ファンやコンプレッサ、タービンが1つの軸で回転していたのに対して、PW1200Gでは減速ギアを搭載してそれぞれが独立した形で回転可能としている。この結果、低圧スプールを高速回転させて最適効率を確保すると同時に、ファンを低速回転させて、大幅に騒音を低減する、さらに、エンジン効率向上によって、エンジンの段数やファンの枚数を減らして、エンジン重量及び運航費の低減を実現させるようになっている。

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写真2 PW1200G エンジン

 MRJでは、こうした騒音や排出ガスの低減化、そして運航経済性の向上によって、従来のリージョナルジェット旅客機と比較して、20%以上の燃費向上を実現可能なのである。

MRJに盛り込まれるその他の魅力的な技術

 上記、環境対策以外にも、MRJには数々の魅力的な技術が盛り込まれている。

 MRJには、航空機の設計にすぐれた経済性を反映させるために、空気抵抗を極力小さくする機体の設計が欠かせない。こうした設計には三菱重工業時代からDNAとして引き継いできたコンピュータベースの「CFD」(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)に基づく空力解析技術により、空気抵抗を最小化させるための空力設計がなされているのだ。

 また、機体軽量化及びメンテナンスコストの低減のために、主翼には金属材料が、尾翼には複合材料が採用される。

 そしてフライトデッキには、4面の15インチ大型液晶ディスプレイを装備し、パイロットによる状況認知性向上や、パイロット自身のワークロードを低減させ極力負担をかけさせないようにし、安全性の向上をはかっている。このフライトデッキでは、フライ・バイ・ワイヤを採用し、動翼を油圧式ではなく電気式で動かせるようにしている。

 なお、乗客に対しては、中央座席なしの1列4席配置なので、座席幅のゆとり確保ができ、オーバヘッドビンへのアクセスも容易になっている。また、客室幅、客室高もゆとりある設計だ。加えてシートには、新型のスリムシートが採用される。

MRJのこれからのスケジュール

 MRJには、90席クラスのMRJ90及び70席クラスのMRJ70がラインナップされている。またMRJ両機とも同じ主翼、尾翼、エンジン、システムが採用、操縦機能やメンテナンスプログラム、スペアパーツでも共通性をもっている。なお、100席クラスのMRJ100Xも計画中だ。

 すでに、2015年1月には最初のエンジンテストが行われた。また、2015年9~10月には、待望の初飛行が行われる予定だ。

 MRJに課せられる様々なテストには、たとえば主翼が飛行中に受ける力に対しての耐久性を調べる曲げのテストが何度となく繰り返されるのが代表的なテストの一つに挙げられるが、もちろん他にも数えきれないテスト種目がある。よく例えられるのは、テスト項目を記したペーパに換算すると、航空機1機分の重量に相当するというから、気の遠くなるような実に過酷なものと想像できよう。

 こうしたテストを経て、初のデリバリが2017年の第2四半期に予定されている。これまでに、日本ではJALやANAが購入しており、海外では米国のトランスステイツ社やスカイウエスト社、イースタン社、ミャンマーのエアマンダレイ社らも購入している。それらの合計機数は、これまでのところ400機以上だ。1機が50億円弱というから、その合計金額も見当がつくであろう。

 MRJの基本的なビジョンは、これまでふれてきたように、最先端の航空機技術を適用して、次世代のリージョナルジェット旅客機のスタンダードを創造しようというものだ。そして、低騒音や低排出ガス、優れた燃費などの環境面、快適な客室がもたらす乗客サービス、さらに高信頼性及び優れた運航経済性に基づきエアラインなどに対して、新しい価値を提供すべく、三菱航空機ではいま、実に膨大で多彩なMRJのテスト、そしてさらなる研究開発などへの取り組みに余念がない。

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