環境ソリューション企業総覧2015Web
インタビュー 東レリサーチセンター 荻野純一室長/東レテクノ 西大路宏部長

インタビュー 東レリサーチセンター 荻野純一室長/東レテクノ 西大路宏部長

■特集 特集2 社会生活に恩恵をもたらす最新環境対策

ナノ材料がもたらす環境への影響とその対策


 

東レリサーチセンター 荻野純一室長/東レテクノ 西大路宏部長に聞く
s-B_07_00_1 s-B_07_00_2

聞き手:環境ソリューション編集部


 

 粒径1~100nm(ナノメートル)という粒子に基づくナノ材料は、家電・電気電子製品をはじめスポーツ用品、化粧品、医薬品、繊維、塗料・インク等、数多くの分野で利活用されている。ナノ粒子が生体内に入ると、まさに分子のような振舞いをするので、特に健康面の安全性評価等、対策が重要だ。ナノ材料がクローズアップされる以前の2008年頃からすでに本格的取組みを展開、豊富な実績をもつ東レリサーチセンター取締役・総合企画室長荻野純一氏(左)及び東レテクノ取締役・環境科学技術部長材料分析室長西大路宏氏(右)に、ナノ粒子の特性や対策、測定法そして構造解析等について聞いた。

多彩な生活シーンで利活用進むナノ材料

 ナノ材料は、さまざまな分野で利用されている。家電・電気電子製品及び家庭用品・スポーツ等に用いられるナノ材料には、カーボンナノファイバや酸化チタン、銀ナノ粒子などがあり、化粧品や繊維には酸化亜鉛やシリカ、酸化チタン及び銀ナノ粒子がある。食品・パッケージではナノクレイや白金ナノコロイド、銀ナノ粒子及びシリカなどがあげられる。さらに医薬品等にもリポソ-ムや酸化亜鉛、シリカ、ナノクレイ等が利用されている。

 将来的には、カーボンナノファイバは、再生可能エネルギーの一つである風力発電に、カーボンブラックは高品質タイヤへの利活用も期待されているところだ。

ナノ材料は生体にどのような影響を及ぼすか

 ナノ粒子が人体に侵入すると、その粒径によって呼吸器中の沈着部位が異なりかつ特有の有害性があるのではないかとされて、さまざまな毒性試験が行われている。例えば1994年のICRP(国際放射線防護委員会)調査によると1)、10nm以下の粒径が小さいものは気管や気管支に沈着し、さらに小さいものは鼻腔や咽頭、喉頭に10nm程のものは肺胞に沈着するという。また300nm付近の粒子の体内組織への沈着率は極めて小さいことが知られている。

 そして、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と産業技術総合研究所はNEDOプロジェクト「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」の成果として許容曝露濃度(時限付き)を2011年に提案した2)。カーボンナノチューブが0.03mg/m3、フラーレンが0.39mg/m3、ナノ酸化チタンが0.60mg/m3という値をそれぞれ示している。これらデータは、一日8時間×週5日×15年間の条件のもと、これ以下の濃度であれば曝露してもほとんどの労働者に対して健康上の悪影響はみられないだろうとするものである。最近では新たに、化合物の種類と粒径双方を考慮しなくてはならないのではないか、といった見方も出てきたようだ。

 一方、厚生労働省では、「ナノマテリアルのリスク評価の方針」策定に取り組んでいる。この時の候補物質として、代表的なカーボンナノチューブやフラーレン、カーボンブラック、酸化チタン、銀を挙げている。

ナノ材料をどう測定するか

(1)ナノ材料の定義と測定
 上記のようなナノ材料が環境や生体に及ぼす影響を把握するには、その測定が必要だ。
 まずナノ材料の定義への該非を判定する測定・分析があげられる。その定義としてEUは、「個数濃度のサイズ分布で50%以上の粒子について1個以上の外径が1~100nmの粒子を含む自然または偶然に生成または製造された材料を意味する」としている。

 NBCI(ナノテクノロジービジネス推進協議会)では「ナノ物体の同定のための階層的フレームワーク」を提案している。NBCIのスキームはいま、ISO/TC/229/JWGの“Tiered Approach Study Group”に発展し国際的な議論の過程にある。これは、素材の製造会社や化粧品はじめインク、トナー、タイヤなどの最終製品における製造会社、また分析サービス会社などでのスキームが整理され提案されたものだ。東レリサーチセンターや東レテクノもこの取組みに関与している。

(2)具体的な測定方法
 ナノ材料関係の測定には、作業環境測定とナノ材料自体の測定が代表的だ。前者はナノ材料を扱う作業場で曝露濃度を評価するもので、ドイツのBIAC(経済産業諮問委員会)がOECDに提案している作業環境測定方法が、EUにおける標準的な方法となる可能性があるとの見方が強い。具体的にはCPC(注1)やSMPS(注2)(PAMS)(注3)などの装置で作業環境におけるナノ粒子の個数濃度や質を測定する。今後、OECDで決定されれば、この作業環境測定方法がISOに取り込まれる可能性も考えられそうだ。

 一方、日本では粉体工業技術協会が評価基準を提案している。これもナノ粒子の個数から評価するが、そのキーポイントはナノ材料を扱う前の状況も測定すべき、という点だ。すなわち、私たちの周りにはもともとナノ粒子が存在しているので、これを無視し難いとするものである。そして、実際にナノ材料取扱いの最中に測定し両者の比較をする、というのがこの提案内容である。いまのところ、両者の差(増分)が10%以内であれば、ナノ粒子の飛散はないものと判断される。

 そして、BIAC及び粉体工業会のケースで用いる測定器の例が、粒子個数を測定可能なCPC及び粒径別に個数測定を行い粒径分布まで測定可能なSMPSである。東レリサーチセンター及び東レテクノが採用した測定器は、CPC、SMPSとも10~1000nmの粒径が対象可能で、測定地点のフレキシブルな移動が容易なポータブルタイプである。CPCは毎秒データを連続取得する機能をもち、粒径分布測定装置であるPAMS(小型のSMPS)は80秒に1スキャン実測可能という機能をもつ。いま、この分野の先駆者でもある両社は、これらの測定結果と許容曝露濃度を比較するなどでアセスメントを行い、東北から九州まで受託検査を精力的に展開中だ。

注1)CPC(Condensation Particle Counter)
注2)SMPS (Scanning Mobility Particle Sizer)
注3)PAMS(Portable Aerosol Mobility Spectromete)

 図1には、ディーゼルエンジン車による排ガス中のナノ粒子測定例を示した。上のグラフはエンジンをかける前で粒径40nm付近に単一ピークがあるが、エンジン始動後1分で15~30nm付近及び180nm付近に二つのピークを確認、体積あたりでは始動前の1000倍という粒子個数が確認された例だ。また10分後には、10nm近傍にピークが現れている。

s-B_07_01
図1 ディーゼルエンジン排ガスのナノ粒子測定の例

ナノ粒子の構造解析

 一方で、ナノ粒子の減少対策も重要な課題だ。東レリサーチセンター及び東レテクノではこの課題を解決すべく、環境規制対象であり発生低減が求められるPM(粒子状物質)から官能基などの化学構造や構造規則性の情報を得るための各種分析を実施している。加えて、デポジット(堆積した不完全燃焼物)生成に関わるPMの有機溶融可溶成分(SOF)について化学組成や分子量などの詳細な分析を行うことも可能という。

 エンジンから排出されるPMは、結晶子サイズの分析をはじめ組成分析、成分分析、構造規則性、組成分析、比表面積などの様々な角度から分析可能だ。加えてPM構成成分の各種溶剤への溶解度の差を利用することでさらに詳細を把握できる。たとえばジクロメタンにより脂肪族炭素等、メタノールにより芳香族炭化水素等、DMF(ジメチルホルムアミド)によりエステル等を中心とした成分が各々抽出できる。一般にPMは、無機カーボンによる煤にSOFが付着して固まったものという。SOFは、エンジンオイルや燃料などの成分およびこれらの酸化物などのオイル状物質が主成分と考えられる。こうしたオイル状物質がエンジン部や配管などに付着し、核となって煤を巻き込みながら、デポジットとして生成することで、エンジンの効率低下さらには環境への影響も出てくるのである。このようにナノ粒子の追究は、自動車メーカのエンジンや触媒の設計などにも重要で、ひいてはこのことが環境対策にも貢献することになるのだ。

参考文献
1)“Human Respiratory Tract Model for Radiological Protection”, ICRP publ. 66(1994).
2)中西準子ら、”ナノ材料リスク評価書”、2011年、2012.2.17部分改訂(ナノ粒子特性評価手法の研究開発(P06041)、産業技術総合研究所).

« »