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解説 日刊工業新聞取材班

解説 日刊工業新聞取材班

■特集 特集1 COP21を見すえて

地球温暖化防止への新たな一歩
―世界が注目する2015パリ会議―


日刊工業新聞取材班

 COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)が11月末、フランス・パリで開かれる。国際社会はすべての国が参加する歴史的な枠組みをつくり、地球温暖化防止への新たな一歩を踏み出す。先進国と途上国が激しく対立し、ここ数年のCOPは膠着状態が続いた。合意が確実視されるCOP21は、今後の経済や社会に変革を迫る転換点となるだけに久々に世界が注目する会議となる。

 8月上旬、米国のオバマ大統領は石炭火力発電所への規制を強化すると発表した。オバマ大統領は大統領権限を使い、当初よりも2ポイント上乗せした32%に規制を拡大した。米政府は3月、温室効果ガス排出量を25年までに05年比2628%削減する約束草案(目標)を国連の条約事務局に提出済み。この数値が、COP21で決まる20年以降の新しい枠組みの米国の目標となる。オバマ大統領は火力発電への規制強化で目標達成を後押しする。

COP、議論の停滞

 COP21に向けたオバマ大統領の積極姿勢が目立つ。14年11月には中国の習近平国家主席と共同で温室効果ガス削減の目標を公表した。これまで削減に消極的だった両国による共同発表は「電撃的」とも言われ、世界の温暖化交渉に大きなインパクトを与えた。

 オバマ大統領が温暖化交渉の表舞台に登場するのは09年末にデンマーク・コペンハーゲンで開かれたCOP15以来だろう。COP15は、12年で終わる京都議定書に代わる新たな温室効果削減の国際的枠組みをつくる重要な会議となるはずだった。オバマ大統領は「ポスト京都」で主導権を握ろうと意気込んで現地に入ったが、先進国と途上国との議論の溝は埋まらないまま時間が経過。排出大国の中国も米国との交渉を拒み続けた。時間切れと思われた最終局面、オバマ大統領は途上国との直接交渉にこぎつけた。「秘密会合中」だったと言われる途上国と同じテーブルに着けたこと自体が奇跡的だった。

 しかしCOP15は、「コペンハーゲン合意に留意」という文書を一部の参加国が作成するにとどまった。土壇場で決裂だけは回避できたことが読み取れる苦渋の表現で、政治宣言の意味合いはなく、COPの正式決定でもない。

 10年にメキシコで開かれたCOP16でも先進国と途上国との主張は平行線をたどり、11年の南アフリカのCOP17で「ポスト京都」となる新枠組みは20年の発効で合意された。そして京都議定書最終年を迎えた12年末、中東カタールのCOP18で13年から20年は京都議定書を単純延長することで合意(第二約束期間)。新枠組みが成立する20年までの空白を何とか埋めたが、参加国はEUとその他の欧州各国、オーストラリア。日本、ロシアは不参加、カナダは京都議定書自体から離脱した。

 この頃、COPの限界説もささやかれるようになった。新たな枠組みを作るには締約国すべての合意が必要。しかし先進国と途上国との主張に隔たりが大きく、枠組みづくりは難航するばかりで出口がみえなかった。その意味でも、合意への道筋がみえたCOP21は歴史的な会議となりそうだ。

自主目標方式採用し、すべての国が参加

 COP21で決まるであろう20年以降の枠組みは「パリ議定書」と呼ばれ始めている。基本は「すべての国の参加」だ。京都議定書は先進国だけが削減義務を負った。日本は08年から12年の第一約束期間中、90年比で6%、欧州連合(EU)は8%の削減が課せられた。当時、世界1位の排出国だった米国も義務を負ったが、参加しなかった。

 過去からの排出量が多い先進国が、途上国より多くの責任を負うべきだという「共通だが差異ある責任」という原則が気候変動枠組み条約にある。先進国は削減義務を負うだけでなく、途上国に資金援助もしてきた。

 先進国と途上国の対立の構図もこの原則から生じている。排出削減はエネルギー消費の抑制につながるので途上国には今後の発展の足かせになる。そのため先進国がより多くの削減すべきだと主張する。

 しかし気候変動枠組み条約が採択された92年の地球サミット当時と状況は異なり、新興国も成長を遂げて中国は世界第1位、インドは第3位の排出大国となった。途上国も削減に加わらないと温暖化対策は実効性に乏しく、影響の深刻化は避けられない。日本など先進国は「平等」を主張し、11年のCOP17で新枠組みへのすべての国の参加が決まった。

 ちなみに先進国37カ国・地域が参加した第一約束期間の平均削減率は09年比22.6%で、目標の5%を大幅に上回る成果だった。ただし参加国は世界全体の排出量の27%しかカバーできていなかった。

 もう一点、京都議定書との大きな違いがある。京都議定書は先進国に削減量を割り当てる方式だったが、新枠組みは削減目標や行動計画を参加国が自ら決めるボトムアップ型に転換した。

 かつては先進国と途上国の対立だった。しかし途上国も一枚岩ではなくなった。発展途上にある中国、インドなどの新興国はあくまで先進国の責任を追及する。海面上昇で水没の危機にある島嶼国は新興国も責任を負うべきだと主張する。各国の利害がより複雑となっており、従来方式では「すべての国の参加」が暗礁に乗り上げる恐れがある。決裂を回避しようと米国が提案し、13年にポーランドで開かれたCOP19で自主性を尊重する自主目標方式の採用が決まった。

 それでも課題がないわけでもない。14年に南米ペルーで開催されたCOP20では、各国が条約事務局に提出する目標に盛り込む項目が議論された。20年以降の削減目標以外に基準年(何年と比較するのか)、期間、野心的な目標といえる理由を提出項目とすることで合意。さらに「気候変動が引き起こす自然災害への対策(適応策)を含めることも検討する」とされた。

 一方で、EUや米国、島嶼国が要求した目標を検証する仕組み(プレッジ&レビュー)の導入は最終的に削除された。第三者からの干渉を嫌う中国などに配慮したと思われる。NGOなども各国が自主的に決めた目標が本当に厳しく、妥当であることを担保するために検証の仕組みを求めている。

日本の対応、エネルギーミックス決まる

 日本政府は7月、30年までに温室効果ガス排出量を13年比26%削減する約束草案(目標)を正式決定し、国連の条約事務局に提出した。主要7カ国(G7)で最も遅くなったが、ようやく新枠組みでの日本の目標が決まった(表1)。

  内容 基準年 目標
日本 26%減 13年比 30年
米国 26-28%減 05年比 25年
EU(28カ国) 40%減 90年比 30年
ロシア 25-30%減 90年比 30年
ノルウェー 40%減 90年比 30年
スイス 50%減 90年比 30年
カナダ 30%減 05年比 30年
メキシコ 25%減 対策なしの
ケースと比べ
30年
中国 GDP当たりの排出量を
60-65%減
05年比 30年

 COP20では「準備ができた国は3月までに提出する」ことが求められていた。日本が期限に間に合わなかった最大の理由がエネルギーを巡る混乱だ。

 11年の東日本大震災後の原子力発電所事故を受けて電力不足が発生。各地の原発が停止する中で、電力の安定供給が優先され火力発電所の稼働が急増した。

 火力は燃料の燃焼時にCO2を多く排出する。影響がもっとも表れたのが13年度だった。国内の温室効果ガス排出量は14億8000万トンと過去2番目に多かった。90年比10.8%の増加だ。京都議定書第一約束期間の目標は達成したが、火力依存度の高まりと景気回復もあり、今後も排出増加は避けられない状況となった。

 民主党政権時に国際公表した20年に90年比25%減とした高い目標は撤回し、政権交代後に05年比3.8%減に修正した。京都議定書の第二約束期間には、排出量が増えている途上国が参加しないことを理由に参加を見送った。ただし10年に開催されたメキシコ・COP16の「カンクン合意」に従い、20年までは自主的に削減に取り組む。

 反原発の世論の台頭があってエネルギー問題の解決策が簡単に見いだせない状況でも、COP21開催までの温室効果ガスの削減目標の策定が迫れていた。政府は目標の前提となる2030年の電源構成(エネルギーミックス)の割合を決める議論も平行して進めた。

 そのエネルギーミックスは「3E+S」が条件。3Eは、安定供給(エネルギー安全保障)、経済性(コスト)、環境(温暖化対策)、Sは安全性だ。

 環境で重要な要素となったのが、温室効果ガス削減目標を「他国に比べて遜色ない数値」にすることだった。09年のイタリアのラクイラサミットでは、先進国が50年までに8割以上削減する目標が合意されている。米国は国連に提出済みの目標が50年目標の道筋に沿っていると説明している。日本も新たに作る目標を50年目標を見すえた数値にする必要がある。

 火力への依存度が高いままだと温室効果ガスの排出の増加だけでなく、燃料費がかさみ、電力コストが上昇する悪循環が続く。それに燃料の輸入に頼るためエネルギー自給率も低いままだ。つまり「3E」が満たされない。

 発電時のCO2排出が少ない原発と再生可能エネルギーの導入割合が高いほど温室効果ガスの排出が減る。とはいえ原発、再生エネとも課題がある。原発は広い地域に大量の電力を供給できるが、事故を経験しており、安全性の確保がなければ原発の割合を増やせない。再生エネは高コストで、大量の電力を発電できない。また太陽光と風力は発電が安定しない課題もある。

 こうした電源別の長所、短所を見極めながら7月に正式決定した30年時点のエネルギーミックスは、総発電需力量に占める割合は原発20から22%、再生エネ22から24%となり、火力は56%に落ち着いた(図1)。さらに「徹底的な省エネ」によって電力需要は13年度比17%減、輸送や給湯などに使うガソリン、ガスなども含む全エネルギー需要は同13%減とすることも決まった。

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図1 長期エネルギー需要見通し

 

COP21後のシナリオ、「26%」達成へ、問われる省エネ施策

 このエネルギーミックスをベースに、温室効果ガス排出削減目標は13年度比26%減となった。26%のうち1%は製造工程や空調機器から漏れ出す温室効果ガスで、大部分の25%が電源構成や「徹底した省エネ」による削減分だ。

 26%減が「他国と遜色のない」高い目標なのか、議論を呼んだ。EUは30年までに90年比で40%減を目標とする。しかも「少なくとも」とただし書きがあり、40%以上の達成を目指している。EUの目標の基準年を05年に置き換えると35%減となる。米国の「25年までに05年比26―28%減」も目標年を30年、基準年を05年比にすると34から37%となる。日本の目標も基準年をそろえると05年度比25.4%減となる。それぞれの国内事情を考慮せずに数値だけ比べると、日本の目標は先進国で高い方ではない。

 一方で、実現可能な数値かどうかという視点も重要だ。日本の26%減は、現状の省エネ技術や低炭素施策を積み上げて作られた。高すぎる目標を掲げて未達に終わるよりも、施策の動員やさらなる技術革新次第で手の届く達成可能な目標といえる。

 省エネ施策の中身も公表されている。照明はほぼ100%をLEDなど高効率型に切り替え、工場で給湯に使うボイラーは高効率型の普及率を71%にするなど、詳細に数値を検討した。

 部門別の対策も示した。工場など産業部門は30年度までに13年度比6.5%減が目標。温暖化対策が遅れているビル・商業施設などの業務部門、家庭部門はともに40%の削減が目標だ。施策も部門別に検討されており、業務部門であれば低消費電力のコピー機が370万台(現状は342万台)、サーバーが319万台(同297万台)、ビルエネルギー管理システム(BEMS)の普及率がほぼ47%(6%)とした。

 家庭部門については新築住宅の省エネ基準適合化と既築住宅の断熱改修が30%(同6%)、ヒートポンプ式給湯器が1400万台(同400万台)、エネファームが530万台(同5万台)、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)がほぼ100%(0.2%)。

 機器の導入には投資が必要だ。政府は検討されたすべての機器導入のコスト負担額をほぼ37兆円と試算している。電源構成の実現とともに、補助金など機器の普及を後押しする政策が求められる。

COP21後のシナリオ、欧州、米国、中国

 EUは排出量取引制度の維持・拡大を狙うと思われる。他の場所で削減した排出量をクレジットとして購入し、自らの削減量としてカウントするのが排出量取引だ。高い目標であるほど自らの努力だけでの削減達成は難しくなり、目標達成の手段としてクレジットの価値が高まる。

 EUは「EU ETS」と呼ばれる域内の排出量取引制度を運用しているがリーマン・ショック後、経済活動が落ち込んで自然に排出量が減少するとクレジットの価格は暴落した。

 EUがCOP21に向け高い目標を掲げ、他国にも厳しい目標策定を迫る背景には、排出量取引制度を維持し、さらに世界展開したい思惑もありそうだ。

 米国はオバマ大統領が火力発電所への規制強化に意欲的だが、排出削減は燃料需要の抑制につながるため国内エネルギー関連産業からの抵抗が大きいはず。石炭火力発電所は操業を続けるにはCO2の回収・貯留装置を取り付けるなど対策費もかかる。コスト負担に耐えられない発電所は廃炉を迫れる。

 反発が予想されてもオバマ大統領が思い切った規制強化を打ち出せたのはシェールガス革命のおかげだ。火力発電所のCO2排出量は燃料によって違い、石炭が多く、天然ガスは少ない。シェールガス革命で天然ガスの一大産出国となった米国では、天然ガスを燃料とした火力発電所が増設されている。

 中国は温暖化対策に本腰を入れると考えられる。温室効果ガスの排出削減というよりも、深刻化する大気汚染対策が当面の狙いだ。PM2.5など健康被害の原因物質を排出する石炭火力への規制を強める。CO2の回収・貯留技術、再生エネの大きな市場になる可能性を秘めている。天然ガスへの転換を進めると、米国などガス産出国にも巨大市場となる。

 大気汚染を克服した日本にとっても中国は環境技術の輸出先として魅力的だ。もちろん欧米企業も、中国市場を虎視眈々と狙っている。しかし中国は自国の産業として環境ビジネスを育成することも十分にありえ、日本企業は厳しい競争にさらされる。また中国は、地方レベルで実施している排出量取引制度を全国規模に拡大する方針だ。規制強化は現地の日系製造業の操業に影響が出る。(松木 喬)

 

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COP以外の温暖化国際交渉の主な出来事

 92年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた地球サミットをきっかけにCOPでの温暖化交渉が始まった。地球サミットは国連の会議として最高の172カ国が代表者が参加。気候変動枠組み条約、生物多様性条約、アジェンダ21など、その後の世界の環境政策を決定づける重要事項が署名、採択された。

 97年に京都市で開かれたCOP3で京都議定書が採択。07年には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がノーベル平和賞を受賞した。IPCCは国連の機関として88年に設立された。世界の研究者が科学的知見から温暖化による気候変動の影響分析、予測をする。あくまで政治から独立し、政策担当者に判断材料を提供する立場だ
が、温暖化政策に大きな影響を与えている。

 2007年発行の第4次報告書では「人為的な温室効果ガスの放出が原因である確率が9割を超える」と報告し、人間の活動が温暖化を引き起こしているとほぼ断定した。また、19世紀末の工業化前と比べ気温上昇を2℃未満に抑える目標も、IPCCが示した複数の予測シナリオの一つに過ぎなかったが、COP15で世界で共有される目標となった。

 京都議定書の第一約束期間が始まった08年開催の洞爺湖サミットで、世界の排出量を50年までに半減する目標について認識が共有された。さらに09年のイタリアのラクイラサミットでは、先進国が50年までに8割以上削減する目標が合意された。

 09年から14年、COP15からCOP20が開催。15年末のCOP21で20年以降の新枠組みをつくることで合意された。

 14年にはIPCCが第5次報告書をまとめた。「温暖化は疑う余地がない」「今世紀末の温度上昇は0.3から4.8℃の可能性が高い」「温室効果ガスの排出を止めても、影響は残る」などと科学的知見から報告。省エネ化や再生可能エネルギーの導入など温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」の継続とともに、気候変動が引き起こす自然災害を被害を軽減する「適応策」の重要度が高まった。

表 地球温暖化問題をめぐる国際的な動き、議論の経緯

  出来事
72年 国連人間環境会議(ストックホルム会議)。環境問題で初の政府間会合
88年 IPCC発足
90年 IPCCが第一次報告書。温暖化の影響を警告
92年 地球サミット開催。気候変動枠組み条約採択。国際社会として初の温暖化対策の条約
95年 独ベルリンでCOP1開催
97年 COP3で京都議定書を採択
01年 米国が京都議定書離脱を宣言
05年 京都議定書発効
07年 IPCCが発行した第4次報告書で温暖化を人間活動が原因とほぼ断定。ノーベル平和賞受賞
08年 京都議定書の第一約束期間(12年まで)開始
  洞爺湖サミット開催。世界の排出量を50年までに半減する目標にいて認識を共有
09年 イタリア・ラクイラサミット開催。先進国が50年までに排出量を8割減らす目標で合意
  日本(鳩山首相)が「20年までに90年比25%減」を公表
  オランドでCOP15。「コペンハーゲン合意に留意」とする文書作成
10年 メキシコでCOP16。京都議定書に不参加の国も20年までに自主的に排出削減行動を定める(カンクン合意)
11年 南アフリカでCOP17。20年以降に新枠組み(ポスト京都)への移行で合意(ダーバン合意)
  日本・東日本大震災発生
12年 カタールでCOP18。13年以降、京都議定書の20年までの単純延期が決定(ドーハ合意)
13年 京都議定書第二約束期間開始。日本は削減義務から離脱
  ポーランドでCOP19。新枠組みでの自主目標方式の採用が決定
  IPCCが第5次報告書。「温暖化は疑う余地がない」などと指摘
14年 ペルーでCOP20開催
15年 新枠組みの目標を各国が提出。日本は30年に13年比26%減を目標に
  11月、フランスでCOP21開幕。新枠組みに合意

 

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