環境ソリューション企業総覧2014Web
東レ

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02_水質・土壌対策 環境ソリューション企業編

世界の“水環境”の課題解決に貢献する
東レの水処理膜技術


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www.toray.co.jp/


地球温暖化が水不足をさらに加速

 地球温暖化に関する議論が世界中で繰り広げられる中、温暖化の影響の一つとして大規模な水不足、それによる農業への打撃。安全な飲料水確保の難しさが引き起こす感染症増加への対策が急務となっている。今すでに世界で8億人が飲料水すら手に入らない状態であり、今後も極めて深刻な水不足に陥るとの見方もある。廃水による環境問題対応、再資源化も重要である。そうした中、東レ株式会社(以下、東レ)の水処理膜技術が、“水環境”の課題解決への一助として脚光を浴びている。

すべての種類の水処理膜を自社開発し製品化する総合膜メーカー

 東レの水処理膜事業は1968年に研究開発を始めた。80年代の半導体事業の活性化に併せて開発した超純水製造用の逆浸透(RO)膜の供給を皮切りに、RO膜の高性能化にもとづき海水やかん水淡水化のほか、各種工業プロセスで使う水の製造、廃水再利用分野へと対象領域を拡大してきた。同社はイオンなどの水中溶存物質すべてを除去できるRO膜のほか、中・高分子量溶存物質を除去するナノろ過(NF)膜、高分子物質やウイルスを除去する限外ろ過(UF)膜、微粒子や細菌を取り除く精密ろ過(MF)膜など、全4種類の膜を手がける総合膜メーカーとして世界中で事業を展開する。また下廃水を処理し再び水資源とする膜分離活性汚泥法(MBR、メンブレン・バイオリアクター)向けに浸漬膜モジュールを開発するなど、膜を利用した水処理技術の領域も手がけている。

RO膜の全出荷量が生活水換算で1.4億人分を突破

 海水淡水化プラント向けRO膜の全出荷量は水量換算で日量900万立方メートル。3,600万人の生活水をまかなう量に相当する。従来からもっとも難易度が高いといわれていた中近東アラビア湾での海水淡水化に成功したほか、アルジェリア(マグタ)で14年に稼働した規模で世界第2位の海水淡水化プラント(日量50万立方メートル)にも採用された。またシンガポールで13年に稼働したアジア最大の海水淡水化プラント・チュアス・(日量31万8,500立方メートル)で使われるのも東レのRO膜。世界中の大規模海水淡水化プラントで豊富な納入実績を重ねており、世界シェアトップの地位を築いている。

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写真1 トリニダード・トバゴ(ポイントリサ)海水淡水化プラント(東レRO膜使用)

 かん水淡水化プラント向けRO膜でも、米国や中東、東南アジアを中心に豊富な実績を持つ。同膜の出荷量は水量換算で日量1,900万立方メートル。納入実績では最大規模の韓国(牙山、日量12万8,000立方メートル)を筆頭に、サウジアラビア(サルボク&ボワイブ、日量12万立方メートル)や、中国(寧夏、日量10万立方メートル)などに納めている。また世界で需要が急増する下廃水再利用プラント向けには、耐汚染性に優れた低ファウリングRO膜を市場に投入する。出荷量は水量換算で日量330万立方メートルで、世界シェアでもトップを誇る。具体的には世界最大の膜法下廃水再利用プラントのクウェート(スレビヤ、日量32万立方メートル)や、同第2位の規模を誇るシンガポール(チャンギ、日量22万8,000立方メートル)などに納めている。

 世界中から水処理技術が集まるシンガポールでは、チュアス(海水淡水化プラント)、チャンギ(下水再利用プラント)などの大型プラント向けにRO膜を納めており、同国でのRO膜シェアは約7割にのぼる。

 また海水やかん水淡水化、下廃水再利用などの各プラント向けに出荷したRO膜は、水量換算で合計日量3,600万立方メートル。1.4億人分強の生活水に相当し、世界人口の約2%をまかなう規模にまで拡大した。

 世界的な水不足の深刻化や環境に配慮した水資源確保の要請などから、RO膜の需要は今後も拡大傾向が続く。東レは07年、日本と米国のRO膜とエレメント製造設備を倍増した。また人口増と経済成長による旺盛な水需要や工業廃水による環境汚染が社会問題化している中国では、同国最大の水処理エンジニアリンク企業の藍星集団と09年に合弁会社を設立。北京市にRO膜の製造・組立を行う生産拠点を開設した。さらに、水不足対策として大規模な海水淡水化プロジェクトや下廃水のリサイクル利用など需要増加が見込まれる中東でも、電力・淡水化分野でサウジアラビアを代表する戦略的企業グループのアブナヤン・ホールディング・カンパニーとの合弁会社設立を本年2月に発表している。

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写真2 韓国水資源公社 公州浄水場(東レMF膜モジュール使用)

RO膜に続き、MF膜、UF膜、MBR用膜を世界で展開

 中空糸を活用したUF膜やMF膜は、飲料水(上水)製造用途でグローバルに需要が拡大している。東レは大型浄水場向けに高い耐久性や透水性を持つポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の大型中空糸膜モジュールを開発し、販売を始めた。国内では最大級の浄水設備、東京都水道局砧浄水場・砧下浄水所(日量8万8,000立方メートル)を始めとする大型案件を受注し、海外では韓国で初の日量1万立方メートル以上規模になったコンジュ浄水場(日量3万立方メートル)に続き、最大級の浄水設備、ソンナム浄水場(日量5万立方メートル)にも採用が決まった。これまでの同膜累計出荷量は水量換算で日量94万立方メートルに達する。現在は北米での浄水処理用途、中東や中国での海水淡水化前処理用途、下水再利用用途への事業展開を進めている。

 環境問題に直結する下廃水処理分野では、微生物などを含む活性汚泥と膜を活用した膜分離活性汚泥法(MBR)が世界中で注目を集めている。処理水の水質が高く、設備の設置面積を縮小できることから、設備更新や処理能力の増強などでも需要が拡大している。捨てる水から使える水へ、東レはMBRに適したPVDF製の浸漬型平膜モジュールを開発し、販売を行っている。同モジュールは独自の製造技術により高い透水性を維持しながら、汚れに強いなど耐久性も両立。欧州でのパイロット実験でも、高い性能を示した。欧州や中国、中東、アジアなどの海外を中心に事業展開を進めており、サウジアラビア(ナジュラン、日量6万立方メートル)やUAE(アル・アイン、日量1万5,000立方メートル)などに納める。これまでの同膜累計出荷量は水量換算で日量57万立方メートルに拡大した。

東レならではの水処理膜技術である統合的膜ろ過技術“IMS”

 RO膜、NF膜、UF膜、MF膜、全ての種類の水処理分離膜を自社開発でラインナップしている東レならではの先進水処理技術、それが複数の膜種を組み合わせて、最適な水処理を行う統合的膜ろ過技術“IMS”(Integrated Membrane System)である。

 水処理の対象原水は、たとえば海水や河川表流水、下水もあれば産業廃水もあり、そして、処理の目的用途も飲用や再利用、単に汚濁物質の低減など様々である。これら様々な対象原水と用途に対し、全膜種を保有している東レではそれらを組み合わせた膜ろ過利用水処理システムを構築し、最高のパーフォーマンスとコスト削減を実現できる。

 例えば、海水淡水化でRO膜を目詰まりさせないようにする前処理に従来の砂ろ過よりもろ過性能の良いUF膜やMF膜を用いて効率的に濁質成分を除去したり、下水の再利用であればROの前処理に下水をダイレクトに生物膜処理するMBRを配したりと、IMSはこれからの水ニーズに合ったソリューションを提供できる。

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図1 東レRO膜を採用している水処理プラントの代表例(2014年3月現在)

水処理事業のグローバル展開

 東レは成長を続ける世界の水需要に対応するため、継続的にグローバル体制の強化に取り組んでいる。米国では米州地域向けにRO膜モジュールの製造や販売、UFやMF、MBR向け膜販売のToray Membrane USA, Inc.(TMUS)社を06年に設立した。また、急増する中国やそのほかのアジア、太平洋地区での需要を取り込むため、09年に製販一体の合弁会社藍星東麗膜科技(北京)有限公司(TBMC)を設立し、営業拠点を集約した。シンガポールにも販売拠点を構築している。

 欧州ではスイスにあるToray Membrane Europe AG(TMEu)社を設立したほか、UAEにも同社の事務所を構え、欧州・中東地域への膜販売を積極展開してきた。さらに2013年にはToray Membrane Spain S. L.(TMSP)社を設立し、欧州での活動を強化している。中東においては前述の合弁会社Toray Membrane Middle East(TMME)の設立により展開を加速していく。

膜技術の弛まぬ研究開発、そしてグローバル化

 東レは生産関係部署の他に地球環境研究所、各種技術部署を組織する。また分析や評価を行う東レリサーチセンターや関連会社とも連携して研究開発事業を展開する。

 地球環境研究所では有機合成や高分子化学、化学工学、生物工学などの研究者が融合し、新たな水処理膜や微生物処理、先端プロセスなどの研究を進めている。各種高性能な超純水用RO膜や海水淡水化用RO膜、下廃水再利用低ファウリングRO膜、PVDF中空糸MF膜およびUF膜、MBR用PVDF浸漬型平膜などの新製品を開発した。また難分解性成分処理や余剰汚泥減容化、生物汚染抑制、微生物学的水質評価、先端的促進酸化などで微生物やプロセス研究を進め、実績を上げている。同社は膜技術が水処理事業の基盤であると位置づけており、経営トップも「膜の研究を止める時は、水処理事業を辞める時」と断言する。

 メンブレン技術部では水処理膜関連の生産技術や品質改善のほか、研究で生み出した新規膜の商品化(モジュール化)や、上水、下廃水、海水淡水化の水処理プロセス開発などの商品・技術開発を進める。ここには化学や化工、機械、衛生工学、生物系の各技術者を投入し、実用化に直結した技術開発を推進する。

 研究開発のグローバル化も推進している。中国では上海にTARC水処理研究所を設置し、中国の水事情に合わせた水処理技術や製品の研究開発を進める。水処理に関する研究や情報が集積するシンガポールには、水処理の研究開発拠点Toray Singapore Water Research Center(TSWRC)を09年に設立。12年に同国で環境関連の研究や実証実験拠点が集積する「クリーン・テック・パーク」内に移転し、研究体制を強化した。従来の膜技術中心の研究開発から、水処理プロセスの管理など、周辺技術や管理ノウハウへと研究対象を拡充した。また同社愛媛工場内の海水淡水化実験施設、滋賀事業場内の浄水実験施設、三島工場での廃水処理実証設備では、十分な実液原水のある実験設備も確保する。

 全ての膜をラインナップし、高い技術力で、グローバルな事業活動により、世界の“水環境”の課題解決に向けた東レの取り組みが期待される。

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