環境ソリューション企業総覧2014Web
インタビュー 地中熱利用促進協会 笹田政克氏

インタビュー 地中熱利用促進協会 笹田政克氏

特集 特集2 リスク社会の環境課題とソリューション

急速に導入進む地中熱利用システム
~新規建物などを中心に国/自治体も推進~


地中熱利用促進協会

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笹田政克理事長に聞く

聞き手:環境ソリューション編集部


 昨今、空調をはじめ融雪、温水プールなど、地中熱利用に対する気運がにわかに高まってきた。環境省が2012年に公表した地中熱利用システム設置件数をみても、前年比40%を超える伸び率であった。もともと地中熱利用システムは、70年代の石油危機を契機に、その代替エネルギー追及から取組みが活発化していったものだ。わが国では当初、小規模なヒートポンプのメーカが地中熱利用システムの普及に取り組んでいたが、その後、大学や自治体、そして国も本格的に取り組むようになってきたのである。

 ここでは、特定非営利活動法人地中熱利用促進協会理事長笹田政克氏に、地中熱利用システムの普及に向けた取組みの近況を聞いた。

どこでも平均気温と同じ地中熱利用への取組みが活発化

 地熱は地表から深いところにおける熱エネルギーの利用法で、地中熱は比較的浅いところでの利用法とされている。

 世界的にみると、地下の熱エネルギーを利用する気運が盛り上がってきたのは、やはり1970年代における石油危機がきっかけとなっている。世界で、石油代替エネルギーの模索が始まったとき、例えばスイスやスウェーデンなどヨーロッパでは日本とは異なり火山がないので、どこにおいても利用できる地中熱の温度差を利用してエネルギーを得ることが可能なこの技術へ取り組み始めた。もちろんわが国も、そうした例には漏れないのであるが、どちらかというと火山国であることから、前述の地熱発電や温泉熱利用の方にウエイトがかかっていた。わが国では、1965年~2000年くらいまでの間に、地熱発電が伸長をみせ16カ所に発電所が設置され、その発電総出力は約530メガワットとなっている。

 一方、わが国における地中熱利用は1980年代から始まっているが、当初は暖房ニーズの高い北海道で、地場産業である小規模なヒートポンプメーカーが取り組んでいるにすぎない状況であった。ヒートポンプは後述するように、地中熱交換器と並んで、地中熱利用技術の心臓部ともいえるものだ。2004年になると、北海道大学においても研究開発を始め、俄かに技術面における盛上がりがみられるようになってくるとともに、地中熱ヒートポンプも量産可能な態勢が整い始めた。

 そして、2010年になると、国のエネルギー基本計画においても、地中熱へ本腰をあげることが明確化された。2011年になると、予算化されるようになり、2014年からはNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)において、「再生可能エネルギー熱利用技術開発」として本格的な技術開発に取り組むこととなったのである。

 地中熱利用は、2020年の東京オリンピック/パラリンピックを控えて、環境配慮の推進における中軸にも据えられている。とくに、地中のどの場所においても年中同じ温度が保たれているので、安定的に得られる再生可能エネルギーとして、ますますその期待が高まってきた。

地中熱とは、その利用に際しての仕組みとは

 地中熱エネルギーは、地表から100メートル程度までの比較的浅い場所での地中温度と大気温度の差を利用して得られるものだ。10メートルの深さの地温は年平均気温と同じで、例えば約15℃で1年中、季節にかかわらず一定となっている。これは身近な例でいうと、井戸水が夏は冷たく冬は暖かい、あの状態である。実は、古代人の住居である竪穴住居や横穴住居もそうだ。生活の知恵として、本能的に地中熱の仕組みを利用していたのかもしれない。

 したがって、具体的には図1に示したように、例えば夏の気温30℃及び冬の気温0℃との温度差を利用する。具体的な地中熱利用システムを図2に示した。地表から概ね最大100メートル程度のところまで穴を掘り、その深さと同じ長さすなわち100メートルの地中熱交換器を設置する。このとき、確保可能な熱エネルギーは1メートルあたり50ワット程度という目安だ。このときの地中熱交換器の長さが極めて重要で、熱交換器の長さを十分確保できないと、必要な地中熱も確保できないのである。

 

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図1 地中熱は地中温度と大気温度の差を利用(地中熱利用促進協会)


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図2 ヒートポンプによる地中熱利用システムの仕組み(地中熱利用促進協会)

 そして、夏は建物からの排熱を吸収させた水または不凍液を地中熱交換器に循環させて地中熱の15℃と熱交換させる。そして、地中で冷やされた循環水に、ヒートポンプを通して室内からの排熱を繰り返し受け渡すというものだ。これで夏は冷風を利用でき、冬は逆のプロセスで温風を利用できる。これがクローズドループと呼ぶ方法だ。また、オープンループと呼ぶ方法もあり、これは、井戸から揚水した地下水を地上のヒートポンプで熱交換し、冷風や温風を利用する。概していえば、クローズドループが多く利用されている。

地中熱利用におけるハイパフォーマンスの魅力

 このとき、地中熱利用の歴然たるメリットを垣間見ることができる。例えば、この夏も40℃近い猛暑であった。この環境で通常の空気熱利用のヒートポンプによる冷房の場合を考えてみよう。そこでは、ヒートポンプによって室内の熱は40℃の外気に排熱しなければならない。その際、外気が40℃なのでヒートポンプの冷媒を利用して圧縮し50℃程度にまで温度を上げないと排熱できないのである。空気熱利用のヒートポンプにおける冷媒温度は7℃程度なので、実に43℃分の昇温が必要になってくる。これが、まさに夏のピーク電力を作り出しているのだ。

 一方、15℃より少し高めの東京の地中熱は17℃であるが、冷房利用で地中を循環する水の温度が25℃まで上がったとしても、熱を逃がすのに5℃差程度で済んでしまうので、結果、25+5=30℃に圧縮するだけで済む。前者の50℃と地中熱利用の30℃には明らかに大きな差がある。この効率性の良さが地中熱利用の最大のメリットを生み出しているのだ。

 また、地中熱利用が増えてきた温水プールでは、年間を通して30℃程度を維持させているという。これは、通常ボイラーの助けを借りている。このとき数百℃で運転するボイラーでも、30℃しか使わないのであるから、ほとんどボイラーが作り出す熱エネルギーは捨てられているといっても過言ではない。ここに地中熱を利用すると、東京の場合17℃から30℃を作り出せばよいのであるから、かなりのハイパフォーマンスといえる。

地中熱は実際にどう利用されているのか

 地中熱の利用は、冒頭ふれたようにいま活発化しつつある。この技術でもっとも重要で金銭的にも負担を要するのが地中に埋め込む地中熱交換器の設置だ。例えば、東京スカイツリー。この例では、杭を打つ際に杭の外側に地中熱交換器を抱かせて埋め込む方式と、ボアホールを掘削して地中熱交換器を埋め込む方式が採用された(写真1)。現在、地中熱を含む高効率なシステムでエネルギーを週辺地域10haに対して供給している。これで、従来の同規模システムと比較すると、ゆくゆくは概ね48%のエネルギー消費量を節約可能になる見込みという。


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写真1 東京スカイツリーへの導入例(建設時にボアホールを掘削し地中熱交換器を埋め込む)
(三菱マテリアルテクノ(株)パンフレットより)

 また、地中熱交換器を水平に設置させる工事方法もある。たとえば東京の小田急線駅の地下化でも地中熱が利用された。写真2は、同鉄道の東北沢駅及び世田谷代田駅におけるケースで、冷暖房のために鉄道用のトンネルの下に、水平設置型の地中熱交換器が建物構造の中に組み込まれた。工事に際しては、建物側の熱負荷や地中の熱伝導率の掌握が極めて重要になってくる。したがって、適切な長さをもった熱交換器の設置がキーポイントとなるのである。この結果、ボーリングする方法よりも初期コストを大幅に低減できたという。

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写真2 小田急線地下化への導入例(地中熱交換器を横に必要な長さ分設置する)
(三菱マテリアルテクノ(株)パンフレットより)

 また、ホームファニシングカンパニーのイケアでは「IKEA福岡新宮店」に、国内最大級の地中熱ヒートポンプを導入した。これは、東京スカイツリーの3倍規模といわれる。ここでは、地表から100メートルの深さまでのボアホール型地中熱交換器が70本駐車場の地下に埋設されている。また、2014年4月にオープンした東京・立川店にも地中熱利用システムが採用されている。

 最近の例では、東京駅近くのJPタワーにおける商業施設の床暖房・冷房に地中熱を利用している例も注目される。

国や都でも建物建造時における標準仕様として地中熱利用システム導入を明確化

 いま、自治体でも国でも、今後建造する建物の仕様の中に、地中熱利用を盛り込む気運が一気に盛り上がりをみせつつある。

 例えば、3年に一度改定される東京都での建物をどのような基準に基づいて建造するか、を方針づける中で、再生可能エネルギー及び省エネルギー仕様に関わる部分においても、2014年改定では、地中熱が重要な役割を担う要素であると謳われている。実際に東京都では、足立税務署の建物にも杭方式による地中熱利用システムを導入、2014年5月から稼働を開始している。

 もう一つ、重要なことは、国も標準仕様として地中熱利用を組み入れてきたことだ。国の建物の仕様は国土交通省が司っているが、この公共建築物標準仕様書において、地中熱交換井に関わる内容を、2013年に加えた。ゼロエネルギー化のモデル事業では、被災地復興の目的で、石巻市に港湾合同庁舎が2014年に完成したが、ここで国の施設としては初めて地中熱利用システムが導入されたのである。

 このように、地中熱利用システムは今後建築される建物の仕様において、デファクトスタンダード化されつつあるといってもよかろう。

地中熱利用の経済性をどう考えるべきか

 地中熱利用システムの環境に対する、かつ省エネルギーに対するメリットは十分うかがえた。だが現実的にコストがどれほどのものかは、重要なキーポイントだ。このシステムの中で、最もコスト面での比重が高いのは地中熱交換器である。地中熱交換器は通常ボーリング孔にパイプを埋設して完成する。ボーリングにはかなり経費がかかるが、一方、埋設するパイプの耐久性は極めて高い。写真3がそのパイプで、パイプは高密度ポリエチレン(PE100)で作られている。これは、50年は耐久性があるという。したがって、事実上この部分は交換の必要性がないといってもいい。またヒートポンプは通常15年が更新期間といわれている。

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写真3 地中熱交換器
(ダイカポリマー(株))

 長い目でみれば、十分コストメリットは引き出せるはず、といわれている。例えば、地中熱利用促進協会がシンポジウムを開催した際に、参加者に初期導入コストをどのくらいの期間で回収できれば地中熱利用システムを導入するかを尋ねたところ、概ね10年という回答であった。まずは、当面2011年から得られるようになった国の補助金を利用して、初期コストを抑制することが近道なのではなかろうか。

 2010年における、世界の地中熱ヒートポンプの設備容量は35ギガワット、日本は2011年時点で62メガワットと、世界からは大きく遅れをとっている状況となっている。しかし、この市場は十分伸張をみせる要素がある。今後の地中熱利用技術のさらなる普及に期待したい。

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