環境ソリューション企業総覧2014Web
インタビュー 日本環境衛生センター 高橋克行氏

インタビュー 日本環境衛生センター 高橋克行氏

特集 特集2 リスク社会の環境課題とソリューション

動態が複雑な「PM2.5」を追う


日本環境衛生センター

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高橋克行課長に聞く

聞き手:環境ソリューション編集部


 PM(Particulate Matter)2.5の話題が世間を賑わせ始めたのは、ここ数年のことだ。しかし実は、その歴史はずっと以前から存在していたそうだ。特に、人体に入り込んだこの微粒子は、呼吸器系や循環器系など健康に及ぼす影響が懸念材料としてあげられている。

 ここでは、大気保全や健康管理などの観点から、PM2.5の近況を一般財団法人日本環境衛生センター(JESC)東日本支局環境科学部環境調査課課長 博士(工学)高橋克行氏に聞いた。

PM2.5を追究する日本環境衛生センターの役割

 日本環境衛生センター(JESC:Japan Environmental Sanitation Center)は、環境省の外郭団体として、各分野の技術者が連携し、家庭から地球までの様々な環境問題の解決に取り組んでいる。なかでも、PM2.5の調査研究は大気汚染に関わる世の最大関心事と言ってもよいであろう。

 JESCはおよそ60年前に設立されたが、当時はまだ厚生省の管轄下で「ハエや蚊のいない町づくり」実践運動を背景に、衛生害虫・ネズミの駆除に関する啓蒙普及活動を展開していた。ここにJESCの“衛生”という言葉が含まれた組織名の由来がある。

 その後、経済成長とともに公害問題が顕在化し、当時設立された環境庁のもと、降下煤塵や空気中の粉塵などを分析するようになっていった。

 そもそもPM2.5の本格的な研究は、米国ハーバード大学により1993年から始まったという。1997年には、米国でPM2.5に関する環境基準が制定され、こうした米国の動向に刺激を受けわが国でも1999年から微小粒子状物質曝露影響調査研究が環境省で始まったのである。そして2000年からJESCも環境省から微小粒子状物質曝露検討業務を受託した。2009年には、わが国にも環境基準が誕生している。

政策パッケージにみる環境省のPM2.5に対する基本的な方針

 環境省では、2013年に「PM2.5に関する総合的な取り組み(政策パッケージ)」を制定した。
 わが国では、かねてより大気汚染防止法や自動車NOx・PM法による規制等によって大気環境の保全には努力してきている。その結果、二酸化硫黄(SO2)や二酸化窒素(NO2)などの濃度は大きく改善されてきた。

 しかし、PM2.5については、環境基準の達成率が低く、原因物質とその発生源が多岐に及ぶことから、生成機構も複雑でいまだ十分に解明されていない。このように、PM2.5は動態が複雑な光化学オキシダントとともに大気環境行政の課題となっている。

 一方で、あの2013年1月以降、中国におけるPM2.5がもたらした極めて深刻な大気汚染に対し、わが国でも一時的にではあるにせよ、濃度上昇が観測されたことなどから国民の関心は高まり、PM2.5による大気汚染に関し包括的対応案が求められるようになった。そこで環境省では、第一に「国民の安全・安心の確保」、第二に「環境基準の達成」、第三に「アジア地域における清浄な大気の共有」という3つの目標を掲げPM2.5対策に取り組むこととし政策パッケージをまとめたのである。

 具体的には、第一の目標では、PM2.5予報をめざして、環境省主体でシミュレーションモデルの構築に取り組み予報精度を高める。このモデル構築の過程でも、その時点までに得られた成果を活用して注意喚起の精度向上を行う。当面の措置は、シミュレーション活用に関する情報を提供する。また中国在留邦人向けにホームページを立ち上げるほか対応を強化する。第二の目標では、PM2.5の現象解明と削減対策の検討を進めるために、中央環境審議会に微小粒子状物質専門委員会を設置する。そして、第三の目標では、アジアにおける地域的取組みの推進や二国間連携の強化などがあげられている。

PM2.5とは。その発生メカニズムは

 大気中に浮遊する粒径2.5μm以下のPM2.5と呼ぶ微小粒子が俄然注目されたのは、2013年中国・北京市の大気汚染であった。だが、実は太古の昔から一定量は地球上のどこの大気にも存在している2)という。火山からの噴煙にも混ざっていたのであろう。

 PM2.5の発生メカニズム次のとおりだ。まず、発生源から直接排出される一次粒子と、ガス状で発生したものが大気中で化学変化を起こし粒子化する二次粒子とがある。さらにこれらは、人為起源と自然起源に分類される。一次粒子の人為起源は工場の煤塵や破砕施設などから発生する粉塵、車の排気ガス、野焼きなど植物燃焼まである。とくに鉄鋼や金属関連の工場からは重金属類の排出もある。また一次粒子の自然起源は、巻上げ土壌や黄砂、海塩、火山噴煙、花粉などがある。こうした粒子にも量こそ少ないものの、PM2.5が含まれているという。一方、二次粒子を生成するガス状物質には、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOX)、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)、揮発性有機化合物(VOC)などが含まれており、人為起源には工場等の燃焼、自動車排ガス、畜産などから排出される。同時に、自然界からもガス状物質の排出はみられ、土壌からのNH3や植物からのVOCなどがある(図1)。

 

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図1 PM2.5の発生と挙動1)

PM2.5はどのようにして測定するか

 2009年に環境基準ができたが、ここではPM2.5分析のために、測定法がキーポイントとなる。JESCは、2007年に環境省から、微小粒子状物質測定法評価検討調査を受託した。環境基準によると、PM2.5の測定方法は、「濾過捕集による質量濃度測定方法またはこの方法によって測定された質量濃度と等価な値が得られると認められる自動測定による方法」と定められている。そして関連の専門委員会で検討が重ねられた結果、わが国では欧米でも用いられている濾過捕集法が標準として採用されたが、フィルタの準備や設置・回収、秤量ほかあまりに労力がかかることから、濾過捕集法と等価な値を得るという条件のもと、内外メーカーが申請した自動測定機の等価性評価試験を経て、承認された自動測定機によるモニタリングが全国で実施されている。

 この自動測定法は、環境基準で定められるPM2.5の標準測定法である濾過捕集法に基づくもので、濾過捕集法はフィルタ上に大気中の粒子状物質を吸引濾過して捕集、その質量を天秤で秤量して求めるものだ(図2)。だが、このときフィルタ上に捕集されたPM2.5の成分のうち揮発性を有するものはフィルタ上でも揮発が始まり、大気中に浮遊していたPM2.5でなくなってしまう。あるいは別のガスが、捕集したPM2.5の上を通過するので反応が起こってしまう。つまり、“ありのままのPM2.5”ではなくなってしまうのだ。フィルタに捕集せずにオンラインで成分を分析する装置開発は欧米で進んでいるという。


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図2 濾過捕集装置の基本構成1)

 図3は、標準測定法と等価である自動測定機の評価イメージを表したものだ。グラフ中、○のように標準測定法との測定値との誤差が小さい自動測定機が等価性を有すると認められ、現在5社8機種がある。こうした自動測定機が全国約800カ所(約1300カ所の設置を目標)に設置されている。


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図3 等価性評価のイメージ

PM2.5に関する国際間連携

 PM2.5対策には国際間連携が重要な意味をもってくる。前述の環境省の政策パッケージに謳われている第三の目標に関わる話だ。

 言うまでもなくアジアにおける地域的な取組み推進は最重点課題であり、大気汚染に関する日中韓協力関係がキーポイントになる。2014年3月には、日中韓三カ国政策対話が北京で行われた。ここには専門家や研究者たちも参加し、各国の政策・対策に加えてPM2.5の現象解明や今後の協力の方向性なども議論されている。

 また、国連環境計画(UNEP)における国内外の専門家・研究者による大気汚染に関する科学的知見の集約や政府関係者によるフォーラムを通じての協力推進、あるいはクリーン・エア・アジア(CAA)や東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)との協力も推進する。同時に対中国や対韓国との二国間連携も重要であり、とりわけわが国の地方自治体のいくつかは中国との姉妹都市関係を結んでおり、強いパイプのもと、今後の展開が期待されそうだ。

PM2.5の真の正体をつかむために

 PM2.5は、海外からも飛んでくるし、自国でも出している。重要なことは、自国の場合、どこから出てきているのかを、推定できる必要がある。一般的には、自動車の排気ガスや煙突からの排煙などと思いがちである。実は、それだけではなくて、前述のように、当初はガス状であっても途中からPM2.5にかわる二次生成粒子の場合もありうるのだ。例えば、石油が蒸発すると炭化水素になる。これが大気中で酸化されていくと、ガス状を維持できなくなり粒子化してしまう。これは、自動車やコンビナートのみならず、森林もその要因をつくっているかもしれない。自動車やコンビナートの場合と、森林の場合と、どちらが二次生成粒子への寄与が大きいかの結果で、PM2.5対策も大きく異なってくるかもしれない。この意味で、二次生成粒子の正体もつきとめることは重要である。いまJESCは、この点のプロセス解明の研究に取り組んでいる。極めて緻密な観測が要求される世界だ。

参考文献
1) 一般財団法人 日本環境衛生センター 「知っておきたいPM2.5の基礎知識」(平成25年5月)
2) 日本エアロゾル学会ウェブサイト
https://www.jaast.jp/PM25faq/2014年8月27日閲覧

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