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インタビュー 地球環境産業技術研究機構(RITE) 都筑秀明氏

インタビュー 地球環境産業技術研究機構(RITE) 都筑秀明氏

特集 特集1 地球温暖化(GLOBAL WARMING)対策の新事情

排出CO2大幅削減の革命児として期待されるCCS


地球環境産業技術研究機構(RITE)

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都筑秀明グループリーダーに聞く

聞き手:環境ソリューション編集部


 地球温暖化の最大要因は、さまざまな産業施設から排出されるCO2だ。いまCO2大幅削減の対策が緊急課題であるが、それには複数の対策が不可欠とされる。数ある対策の中で、注目される技術が、排出CO2を地球環境に影響を及ぼさないよう地中に安定かつ安全に貯留・隔離するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)だ。

 ここでは、RITE(Research Institute of Innovative Technology for the Earth:公益財団法人・地球環境産業技術研究機構)地球環境産業技術研究所 企画調査グループリーダー 都筑秀明氏にCCSの最前線を聞いた。

排出CO2を安定・安全に地下に封じ込めるCCS

 IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が、2012年に発表した「エネルギー技術展望2012」によると、極めて厳しい状況を窺い知ることができる。すなわち、地球表面平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃以内に抑制するためには(2℃シナリオ)、2050年に世界のCO2排出量を2009年比およそ半分の16Gt/年にしなければならない。しかし、このまま追加の対策を採らなければCO2排出量は58Gt/年と予測されるので、実に42Gt/年という大幅な排出量削減を達成しなければならないのだ。

 そこで、注目されるのがCCSだ。CCSはRITEが中核的な研究課題に据えており、石炭火力発電所やガス火力発電所などから排出されるCO2を分離・回収し、地中に貯留する実に革新的なCO2削減技術である。また、再生可能エネルギーなどと比較しても、CO2の単位重量当たりの削減費用が安く、コストメリットを生み出しやすい。また、CO2を大幅に削減するためには、火力発電所のみならず、製鉄所、セメント工場、石油化学プラントなど他産業領域でも、CCSを導入する必要がある。

CCSではどうCO2を貯留させるのか

 図1がCCSの仕組みだ。火力発電所からの排出CO2は分離・回収されて、陸域や海域の地中に貯留するというものである。図左は、排出されたCO2を圧入井から地下1~4kmの陸域帯水層(砂岩層かつ塩水層)に圧入する仕組みを表している。また図右は、排出CO2を海域帯水層に圧入する場合である。

 

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図1 CCSにみるCO2の回収・貯留

 重要になるのは、圧入・貯留させたCO2がそこに安定して留まり、地表には漏れてこないようにする安全性の確保だ。そのためには、帯水層の蓋が必要になる。実は、蓋の役割を果たすものが、キャップロックと呼ぶ不透水層で、これは泥岩で構成される。そして帯水層に圧入されたCO2はPore(ポア)と呼ぶ空隙部分に貯留される(図1下写真部分)。これだけをみるとシンプルな仕組みを感じさせるかもしれない。だが、そこには大きな困難を伴うことがあり、実にさまざまな開発努力が潜んでいるのだ。

シンプルにみえるが奥深いCCSの技術

 RITEが取り組むCCS関連の主要な技術プロフィールにふれてみよう。

(1)CO2の分離・回収技術

 まず、CO2の分離・回収技術だ。図2のように、主に液体吸収、固体吸着、膜分離の3つの技術がある。

 

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図2 3つのCO2分離・回収技術

 液体吸収に関しては、RITEで高性能な化学吸収液(アミン系水溶液)が開発された。製鉄所の高炉ガスは、約20%のCO2のほかにCOやN2、H2なども含んだ混合ガスであり、吸収搭内で吸収液によってCO2が選択的に分離される。吸収液は、低温や高圧時にCO2を吸収し、高温や低圧時にCO2を放出する性質を持つが、現在は温度差を利用しているので、熱エネルギーの消費が高い。課題は、この熱エネルギーをいかに下げていくかにあり、これまでの世界水準は、3.0~4.0GJ/tCO2であった。これは、1tのCO2を除去する熱エネルギーが少なくとも3.0~4.0GJ(7~10億カロリー)必要ということだ。RITEが開発した吸収液では2.0GJ/tCO2で、世界トップレベルであり一部実用化されている。だが2.0GJ/tCO2は液体吸収ではほぼ限界という。

 そこで、この限界を打破すべく取り組むのが固体吸着技術だ。水は比熱が大きく、温度を上げるには大きな熱エネルギーを欠かせない。だが固体は水よりも比熱が小さいので、水の代わりにCO2吸収剤との組み合わせとしてフォーカスされた。具体的には、化学吸収剤アミンをシリカやポリマー、粘土鉱物などの固体に坦持させて固体吸収材をつくる。この固体吸収材は、圧力が低くてもCO2の吸着量が大きいという特長があり、固体吸着技術でも世界トップレベルとしている。これで液体の2.0GJ/tCO2を超え、1.5GJ/tCO2を実現可能としたのである。この優れた特性をもとに、RITEでは、宇宙船や潜水艦など閉鎖空間用の再生型CO2吸着材の開発にも取り組んでいるところだ。

 さらにRITEでは、次世代型膜モジュール開発にも取り組んでいる。膜分離の長所は、圧力差さえあればCO2の分離・除去が可能なので、液体吸収や固体吸収のようなエネルギーを必要とせず、高ガス圧や高濃度CO2の処理に向く。実はこの膜は不思議な膜で、分子ゲートと呼ばれる機能をもつ革新的なCO2分離膜「PAMAMデンドリマー」である。高圧のCO2、H2、N2などの混合ガスを膜に通すと、CO2分子の大きさは0.33nmと、H2分子の0.29nmよりも大きいため、分子篩(ふるい)性の通常の膜の場合は、H2分子がより多く通過してしまう。だが、この膜はアミノ基をもっており、CO2が近づくと、真っ先に軽く結合する。そして軽い結合なので圧力差により徐々に抜けていく。このときH2とN2(0.36nm)は行く手のCO2がじゃまで通れない。このように、膜はいわばゲート機能をもっているのである。この詳細な原理はまだ十分に解明されていないが必ず起こるこの不思議な現象を利用している(図3)。

 

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図3 分子ゲート機能をもつ次世代型膜モジュール

 このような日本のCO2回収技術は、上記のように世界でもトップクラスを誇るのだ。

(2)貯留技術

 CO2の貯留は図1のようにキャップロックがある帯水層に圧入する。このときCO2は気体と液体双方の性質をもつ超臨界状態で圧入され、地層水を押しのけ貯留されるが(図4)、超臨界状態のCO2は流動性が高いことから、狭い空隙にも浸入していく。圧入後CO2は、徐々に化学反応を起こし、圧入されたCO2のうち、地層水に溶解したCO2は地化学反応によって、炭酸塩(CaCO3)などとして地中に固定される。

 

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図4 CO2の状態図と地中への圧入

 RITEは長岡(帝国石油(株)岩野原基地(当時))で、1万tのCO2を2003年~2005年にかけて圧入する実証実験を行い、現在でも圧入し貯留したCO2の観測は行われている。図5は実験の圧入終了後と約6年経過後のCO2の状態を表示したものであるが、CO2は貯留状態を保持、安全性を裏付けている。この観測結果は世界でも初めてという。またわが国では、北海道・苫小牧でCCSの大規模実証実験が行われており、2015年度までにCO2の分離・回収設備及び圧入設備を建設し2坑の圧入井を掘削、2016年度以降、年間10万t以上のCO2を圧入する計画となっている。

 

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図5 長岡におけるCO2貯留状態

(3)次世代CCS「SUCCESS」

 RITEでは、SUCCESS(Storage&Utilization of CO2 for Coexistence of Economical&Safe System)と呼ぶ次世代CCSの開発に取り組んでいるが、これはより経済的で安全なCCS実現をめざすというものだ。この効果は、第一に排出した高温の地層水から熱エネルギーを回収したり、またCO2が帯水層に充ちた後CO2を循環させて地熱エネルギーを回収する。これで、CCSによる収入確保をめざせる。第二が、CO2圧入時における帯水層の地層圧上昇を緩和するので、地層圧の異常上昇に備えた安全対策ツールとなる。第三が、地層圧上昇が緩和されるので井戸1本あたりのCO2圧入速度を大きくとれ、コスト削減につながる。

海外におけるCCSの状況は

 グローバルCCSインスティテュート(GCCSI:The Global Carbon Capture&Storage Institute)報告書(世界のCCSの動向2013など)によると、世界のCCSの状況は、米国はじめヨーロッパ、中国、カナダにおいて、大規模プロジェクトの計画が多い。GCCSI報告書では、大規模統合CCSプロジェクトを、LSIP(Large Scale Integrated Project)と呼んでいる。LSIPは石炭火力発電所の場合、年間80万t以上のCO2を貯蔵可能で、かつ分離・回収、輸送などCCSに不可欠のプロセスが整備されているもの、また石炭発電所以外であれば、40万t以上のCO2を貯蔵可能なものと定義している。上記4国におけるその数は、米国19、ヨーロッパ11、中国12、カナダ7であるが、実際に運転中のプロジェクトをもつのは、米国が19のうち7、ヨーロッパが11中2、カナダが7中1で、中国にはない。
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*グローバルCCSインスティテュート(The Global Carbon Capture and Storage Institute)とは(オーストラリア)会社法2001(連邦法)に則り登記された独立的非営利法人のこと。

 

 なぜ米国やカナダでLSIPが多いのかというと、EOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収)によるCCSだからだ。油田では当初自噴採油等で原油を回収するが、やがて噴出しなくなりポンプ採油等の人工採油法等により原油を回収する。さらに、回収率を上げるため、原油の層にCO2を圧入する。そうすると、CO2と原油が混ざり合って流動性が増し、CO2とともに原油を回収することができる。このようにして残存原油を回収する方法がEORだ。この際に、一部のCO2が地下に残り、貯留することになる。実は、米国やカナダに見るLSIPは、CO2を帯水層に貯留するCCSではなく、ほとんどがEORによりCO2を油田に貯留するCCSだ。EORの場合は、本来目的が原油回収なので、それ自体が事業性を有するため、数が多くなっている。逆にヨーロッパは、ほとんどが帯水層利用で、中国はほぼ半々だが、中国にも油田があるので、将来的にはEORを加速させたい意向だ。

 EORでは、利用したCO2を大気に放出すれば地球温暖化につながってしまうため、可能な限りCO2を地下に貯留することが重要である。EORでも、排出CO2を可能な限り貯留するようになると、名実ともにCO2削減といえることになる。

CCS標準化の動向

 CCSのさらなる本格実用化を促進し産業的に定着させるには、国際レベルでの標準化を欠かせない。いま、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)では、CCSの規格原案の作成に取り組んでいる。2011年10月には、CO2回収・貯留についてのISO規格をつくるために、専門委員会TC(Technical Committee)-265が設立された。議長国がカナダで、参加国のPメンバーが18カ国、オブザーバー国のOメンバーが9カ国、加えて国際機関等のリエゾン7機関が参加している。このTCの下には、回収(WG1)、輸送(WG2)、貯留(WG3)、定量化と検証(WG4)、横断的課題(WG5)のワーキンググループが設けられ、2013年からCO2-EOR(WG6)も加わった。

 日本は、WG1及びWG3のコンビーナ(議長)を務める。これを受けて、日本では対応の検討や決定を実行するため、国内審議団体としてRITEが承認され、「ISO/TC265国内審議委員会」が設置された。この国内審議委員会は、CCSについての国際標準化活動に対する原案作成を含む国内の対処方針案の作成、ISO/TC265の国際標準化活動に関与する日本代表の決定、CCSの国際標準化に必要な調査や検討、調整などを行う。

IPCC及びIEAも認める今後のCCSの役割

 CO2排出に対する規制は米国を中心に強化されつつある。たとえば、オバマ米大統領のClimate Action Planに基づくEPA(Environmental Protection Agency:米国環境保護庁)による新排出性能基準(NSPS:New Source Performance Standards)によると、新規の石炭火力発電所では1kWhあたり500g以下にしなければならないという新たな規制が提案された。石炭火力は1kWhあたり平均864g排出するので(経済産業省資料)、どんなに頑張って効率化をめざしても、従来の対策では1MWhあたり500kg以下の目標は不可能といえる。したがって、EPAの提案が決定されれば、米国においては、新規の石炭火力発電所等でCCSの義務付けが不可欠となる。

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)でも、CCSが果たす役割を欠かせないとしている。IPCCでは、多くのモデルでは追加的な排出削減がかなり遅れたり、バイオエネルギーやCCS及びそれらの組合せなどのカギとなる技術の使用に制限されたりすると、2100年までにCO2換算で約450ppmという大気濃度レベルを達成できないとし、CCSはCO2削減策の中でもキーテクノロジーという。

 一方IEAでも、世界の貯留すべきCO2の量の見通しをたてており、前述2℃シナリオにおいて、2030年には、もっとも化石燃料を消費すると予測される中国が3.7GtのCO2を貯留することが必要とされ、米国は2.5Gt、ヨーロッパ1.4Gt、インド1Gtとしている。IEAではCCSの投資規模見通しもたてている。それによると、CCSには日本円にして約360兆円の投資が必要という。しかし、グローバルCCSインスティテュート(GCCSI)によれば、太陽電池で排出CO2の大幅削減を賄うことを比べると、初期投資だけではなくトータルコストで見た場合、1/10~1/3程度ローコストで済むのではないかとしている。

 日本は、東京電力の火力電源入札に関する関係局長クラス会議のとりまとめでは、国として当面、2020年頃のCCS商用化をめざして技術開発を加速するほか、導入の前提となる貯留適地調査などについて早期に結果が得られるように取り組むとしている。石炭火力には、商用化前提で2030年までに導入することを検討し、2050年までに、温室効果ガス排出量80%削減を実現するために、同年までの稼働が想定される発電設備を有する該当事業者に、CO2分離・回収設備の実用化に向けた技術開発を含めて、今後の革新的なCO2排出削減対策についても継続的な検討推進を求めていくとしている。

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