ソリューション企業総覧 Web版
三井物産

三井物産

環境ソリューション企業編

“次の100年を見据えて” 44,000ヘクタールの森林とともに歩む


三井物産

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国産材を暮らしの中に取り戻す

 国連は2013年を「国際水協力年」に定め、「私たちは、この脆弱で有限な資源である水を保護し、慎重に管理するために協力しなければなりません」とのメッセージを発信した。地球は“水の惑星”と評されるが、水の97.5%は海水で、淡水は2.5%、その大半は南極や北極の氷山などで陸上生物が利用できるのは0.8%に過ぎない。最近では、工業用水や灌漑などの多量使用によって世界の約7億人が“水の危機”に直面している。

 こうした危機的状況に拍車をかけているのが森林の違法伐採である。森林にはさまざまな公益的機能があるが、その一つに「水源涵養機能」がある。腐葉土が雨水を蓄え、地下水や河川に水を供給する機能である。無秩序な森林の伐採によって「水源涵養機能」が弱体化し、水の供給能力が危機に瀕する地域が増大している。

 わが国ではきれいな水を惜しみなく使用できる環境下にいるため、こうした危機感は希薄であるが、豊かな水環境がいつまでも当たり前のように存在し続ける保証はない。これまでも森林の中の水系が倒木や土砂の流入により、破壊された報告がある。三井物産の環境・社会貢献部社有林・環境基金室の赤間室長は「日本の林業はさまざまな施策が講じられていますが、衰退状況から脱していません。本業として林業に携わる人は47,000人足らずで、これでは森林の管理は限定されます。そのため川上だけでなく川中の製材業、加工技術の振興、川下のくらしの中での木材使用など三位一体となって林業を活性化しなければ、水環境も悪化します。この2〜3年が林業活性化の勝負ではないでしょうか」と林業の活性化に強い意志を示す。

 そして、赤間室長は木材が身の回りで使用されなくなったことを憂う。「植林をした木が使用する適年になっているにもかかわらず、林業の衰退で活用されていません。かつて、耐震や防火の観点から建築物から木材が排除され、その結果、“木を使う生活”が非日常的になりました。こうしたことが人々の心の病の増大の一因にもなっています。また、森林は成長過程で二酸化炭素を吸収しており、木材、木製品は二酸化炭素を固定した究極のエコ製品です。人間の身の回りで長く使用するのが本来の姿ですが、日本の使用量は40百万m3足らず(製紙用のチップを除く)でドイツの3分の2、一人あたりの使用量としては半分以下という状況です」。そして、赤間室長は「木材、とりわけ国産材を暮らしの中に取り戻さなければならない」と強調する。

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写真1 美しい森は豊かな水を育む(北海道・沙流山林)

 

森林を活用した新しい取り組み

 三井物産は、こうした森林の現状、林業、木材の使用に危機感を表明するだけでなく、具体的にさまざまな取り組みを展開し、これからも“100年単位の森づくりと人づくり”を展開していく。代表的事例を紹介する。

 将来を担う子どもたちを対象に「森林の姿、木材の正しい利用」を伝える活動を環境教育の一環として実施している。「出前授業」は、主に小学生を対象に、森の役割や日本の森林、林業の仕事に関する授業で、日本各地で開催している。毎年12〜13回開催し、これまで延べ2,000人が参加している。北海道新聞主催の“北海道エコアクション”でも2012年11月及び2013年1月に出前授業を行い人気を得ている。2012年7月に開催した神戸市立青少年科学館での出前授業では、“森が水をきれいにするしくみ”の実験も行いながら、森の恵みや森林の成り立ち、森林の役割、林業のサイクルについて説明した。参加した子どもたちから「将来は林業家になってみたい!」との感想もあったという。

 「森のきょうしつ」は三井物産のホームページ上にあり、子どもたちが遊びながら森や林業について学べるように構成されている。1時間目の社会から6時間目の図工まで子どもを飽きさせないつくりになっている。概要は以下の通り。

 社会:森のしごと「林業」って何だろう、体育:森林体験教室に行ってみよう、国語:森のめぐみについて本で学ぼう、算数:森のひみつをデータで解き明かそう、理科:自由研究で森のしくみを知ろう、図工:ペーパークラフトで森の生きもの作り

 「森林環境プログラム」は、「三井物産の森」に入り、森林や動植物に触れるとともに、間伐、植樹、枝払いなどの林業体験を行う。参加者に「自然観察」「林業体験」などを通じて、森の役割や人と自然とのつながり、森を育てることの大切さについて知ってもらう気付きの場を提供している。

 2012年は、千葉県・亀山山林、北海道・似湾山林・沼田山林、福島県・田代山林、京都府・清滝山林、大分県・城ヶ岳山林、三重県・三戸山林などで計23回開催している。

 一方、こうした子どもを対象にした活動に加え、2013年9月からは慶応義塾大学において木材利用、木材建築の普及を目指した寄付講座を予定している。また、同社本店の1階ロビーでは、オフィスでの国産材利用の推進を目的に「三井物産の森」の木材を活用した「木づかい」スペース『Forestarea(フォレステリア)』を2012年9月にオープン。訪問客や社員にこのスペースを活用してもらい、日本の森を守り・育てるための「木づかい」の重要性を発信している。

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写真2 森林体験教室(北海道・似湾山林にて)

 

森林、木材を通じた復興支援

 こうした森林、林業、木づかいの啓発活動とともに、東日本大震災の被災地で森林、木材を活用した復興支援に取り組んでいる。

 震災以降、被災地の子どもたちにはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に代表される「心の危機の深刻化」が懸念された。そこで、東京学芸大学の小林 正幸教授の総合監修のもと、野外活動家と臨床心理士たちがタッグを組んで、子どもの「こころのケア」を目的とした「みどりの東北元気プログラム実行委員会」が立ち上がった。この委員会が開催するのが「みどりの東北元気キャンプ」で、同社は協賛企業になっている。

 このキャンプは2011年7月から順次開催され、2012年には4回開催された。その内2回は、福島県南会津の「三井物産の森」田代山林の麓のキャンプ場で開催され、2013年も7月に行われ、50人の小中学生が参加した。

 国産材の利用では、2013年3月の岩手県陸前高田市の気仙大工建築研究事業協同組合向けの地元気仙杉材を利用した木造寄合所一棟を寄贈した。「気仙大工」は岩手県気仙地方の大工集団で、神社仏閣・民家の建設、建具までも手掛け全国的に高い評価を得ている。同協同組合は、この伝統技法を後世に残すために設立されたものであるが、震災によって寄合所が被災した。同社では、川下の需要拡大に深くかかわる大工技術の継承が林業再生には不可欠との認識もありこの寄合所の再建に協力した。

 他にも陸前高田市内の木造仮設図書館「にじのライブラリー」や陸前高田浜のミサンガ「環」生産者協議会の「ウッドデッキ」などの寄贈があり、今後も被災者の生活改善に木を通じて支援を継続していくという。

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写真3 寄贈された寄合所

 

「文化的保護林」で日本文化の保全と振興

 三井物産では、「森林によって育まれた精神、文化は日本人、日本文化と切り離すことができません。森林を通じて、失われつつある日本の文化取り戻すことが必要です」(赤間室長)との観点から森林の保全を地域の文化・伝統保全につなげる活動も積極的に行っている。

 沙流山林は、アイヌ文化発祥伝説が残る北海道・平取町二風谷近くにあり、古くからアイヌの人々が利用してきた。同社は、2010年4月に(社)北海道アイヌ協会平取支部と、また、2010年9月には、北海道平取町と協定を締結し、アイヌ民族の文化の保全、振興活動を行っている。

 活動事例としては、アイヌ民族の代表的な衣服である樹皮衣「アツシ」の素材となるオヒョウの木が減少傾向にあることから、オヒョウの木の沙流山林への植栽、伝統家屋である「チセ」復興、建築に必要な木材の沙流山林からの提供などがあげられる。さらに、沙流山林内にあるチャシ(砦や祭祀の場、見張り場など)跡を守り、文化遺跡の調査にも協力している。

 また、京都市にある清滝山林では、山林の一部を(公社)京都モデルフォレスト協会が行う、京都の森を守り育てる活動のために10年にわたって無償貸与する協定を、同会および京都府と2008年に締結している。この協定に基づき、京都の伝統行事である「大文字五山送り火」「鞍馬の火祭」に必要な薪や松明の材料を提供するとともに、地域の方々の「森づくり体験活動」の場を提供している。

森を「社会全体に役立つ公益性の高い資産」と位置付ける

 以上のようなさまざまな啓発活動、貢献活動ができるのは、広大な自社の社有林を長年にわたって保持、活用していることによる。社有林の現況や管理について概観する。

 1909年、旧三井物産は木材事業のために北海道の山林を取得した。これが、旧三井物産と森林を深く結びつける契機となった。その後、事業の拡大に伴い、北海道の山林をはじめ本州でも山林を取得し、現在の三井物産となってからも、世代を超えて手を入れ山林を慈しんで来た。その結果、現在では北海道から九州まで全国74カ所に合計約44,000ヘクタールの社有林「三井物産の森」を保有している。この面積は、日本の民間企業のなかで三番目の規模で国土の約0.1%を占める。林野庁では森林の公益的機能別に評価額を積算しているが、この評価額に準じて「三井物産の森」を評価すると1年あたり約1,200億円にもなる。

 これらの森は、人工林約40%、天然林・天然生林約60%で構成され、「循環林」「天然生誘導林」「生物多様性保護林」「有用天然生林」「一般天然生林」「その他天然生林」に区分される。

 区分にふさわしい管理がされているが、基本的な管理方針は森を「社会全体に役立つ公益性の高い資産」と位置付け、長期に維持・保有していくことは大切な社会的責任であるととらえていることだ。そのためにFSCⓇ 認証や生物多様性評価など第三者からの客観的評価を積極的に受け入れている。

 社会的責任を果たすためには、一定の水準を満たした管理方法を確立することが不可欠である。確立されているか否かを判断するのが「森林認証」で、認証の普及により無秩序な森林伐採を防ぎ、森林を健全に保ち、地球環境が保全されることが期待されている。世界には認証制度は複数あるが、「FSC認証」は世界で広く普及しており、同社においても比較検討し本認証を選択している。

 FSC認証は、国際的な森林認証制度を運営する非営利国際会員制組織FSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)が定めた国際基準による認証。同協議会にはさまざまなステークホルダーが参画しており、多様な視点から10の原則と56の規準が設けられている。

 この認証では、森林管理者が経済的に成り立つための管理状態だけでなく、環境に配慮し、森林周辺の地域社会と良好な関係を築くことなども求めている。「三井物産の森」での認証手続きの際には、全国74カ所の山林のステークホルダーに対してアンケート調査が行われ、同社と各山林の管理を行う三井物産フォレストが地域と良好な関係を構築していることが確認された。

 その結果、同社は、FSCⓇ 認証(FSCⓇ―C 057355)をすべての森林で取得した。これは国内における1万ヘクタール以上の森林を保有する民間企業では初の事例である。なお、FSC認証のうち、森林管理を対象とするFM認証(Forest Man­age­ment)は同社が取得し、切り出した木材の加工・流通を対象とするCoC認証(Chain of Custody)は三井物産フォレストが同時に取得したことで、国産のFSC認証材の供給者としても日本最大となった。

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写真4 山林の一部が尾瀬国立公園に指定されている田代山林(福島)

 

生物多様性の定量評価を実施

 2010年に開催されたCOP10(生物多様性条約締約国会議)では、「愛知目標」が採択された。これは、生物多様性の損失に歯止めをかけるため、2020年までに実効的で緊急の行動を起こすもので、2050年までの中長期目標も含まれている。企業においても例外ではなく、同社は、「三井物産の森」を適切に管理することを通じて生物多様性を育み、その豊かな森を次の世代へと引き継ぐことを方針として打ち立てている。

 同社では、生物多様性の観点から重要性が高いエリアを「生物多様性保護林」(全体の約10%)とし、さらに森林の性質によって「特別保護林」「環境的保護林」「水土保護林」「文化的保護林」の4つに区分している。このように保護の目的を明確にすることで、生物多様性保全により踏み込んだ森林管理を実現している。

 こうした取り組みを科学的に評価するためにモデル山林における生物多様性の定量評価を実施している。この評価は、動物を指標とする生物多様性の定量評価=HEP(Habitat Evaluation Procedures/ハビタット評価手続き)といわれるもので、米国を中心に活用されている。対象となる区域の面積や環境条件、立地条件、希少性などから、指標とする野生動物を数種類選定し、これら指標種の「住みやすさ」を数値で示したHSI(ハビタット適性指数)をもって、対象となる区域の生物多様性の過去や未来も含めて生物多様性の質を数値化する。2009年、5カ所のモデル山林で、財団法人日本生態系協会による、HEPを行った。

 このうち清滝山林ではJHEP認証の「AA+」の認証を取得し、地域の特性に配慮しながら生物多様性の質を向上させていることが科学的に証明された。この認証は、財団法人日本生態系協会が2008年12月に創設した認証制度で、動植物の観点から生物多様性の質を定量評価し、AAA〜Dの10段階でランク付けする。

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写真5 ‌山林を通じて京都の伝統行事に必要な材を提供(京都・清滝山林)

 

人材を育成し、社会的価値を創造

 旧三井物産の初代社長・益田孝は「眼前の利に迷い、永遠の利を忘れるごときことなく、遠大な希望を抱かれること望む」という言葉を遺している。この言葉は現在の三井物産になってからも会社のDNAとして事業活動の隅々にまで受け継がれており、「三井物産の森」の管理も例外ではない。このDNAに基づいた森林管理理念やノウハウは三井物産ならびに三井物産の森の管理を行う三井物産フォレストのベテラン従業員から若手に確実に引き継がれている。

 また、同社では2006年に社有林の保有意義に公益的価値を大きく取り入れている。「使わないと循環しない」を基本に総合商社ならではの視点、機能を発揮し、社会的価値と企業価値の同時実現に社会の期待は高まっている。

 

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